第三章 黒き天使
第11話 今まで生きてきた中で、一番楽しかった
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合って二日。だが、はっきりと変化がわかった。
「ここで、お別れだ」
ついに、旅は終わりなのだ。
「契約終了ってことだね」
「ああ。契約場所とみなされる範囲内に入った。今このときをもって契約終了だ」
彼は、背負っていたアカリのバッグを降ろし、渡してきた。
アカリは両手で受け取ったが、目線がそこに落ちることはなかった。
契約終了。そしてお別れ。
惜しみながら、普通にバイバイすればいい。
ここまで歩いている途中に、気持ちを整えようと、いちおうの努力はしていた。
していたはずだった。
きっと大丈夫だろう。そうも思っていた。
だが――。
「念のため言うけど、お前以外には俺の姿が見えないようにしたから」
そう言って彼が背中から悪魔の羽を出すと、努力は水泡に帰した。
「――!」
骨と骨の間の飛膜は、ところどころが傷んでいた。
左の羽は特に酷い。小さな穴がいくつも空いており、下部には線状に大きく裂けてしまっているところがある。
穴や裂け目は……赤黒く見えた。流れたのはきっと、人間と同じ、赤い血。
「羽……やっぱりボロボロだったんだ……」
「大丈夫だ。電車の中で言ったとおり、すぐ治るし、飛んで帰るには全然問題ないぞ」
ミナトは笑いながら、傷ついた羽を軽く揺らす。
「本当に大丈夫だからな? 心配するな」
彼は照れることもなく、頭を掻くこともなく。出発前や旅行中とは異質な笑顔のまま、もう一度そう答えた。
「じゃあ、もう行――」
「待って!」
その声で、大きく動かそうとしていたであろう羽が、ピタッと止まった。
「もう、二度と会えない……の?」
「ああ。もう二度と会えない。今見えているあの塔も、すぐに消えるはずだ」
「そう……。でも、やっぱり、今すぐここでバイバイって、なんか嫌だよ……もうちょっとだけ……」
「……」
「フライドポテトおいしいって言ってたよね? 今から食べていかない?」
「いや、遠慮しとくよ。サンキュ」
「じゃあ……あ、そうだ。塔の中を見せてよ。あんたにつかまったら運んでくれるって、旅行に行く前に言ってたよね」
「契約が終わっているから、それはもうだめだ。見せられない」
言わないはずだった言葉が、アカリの口から次々に出てきてしまっていた。
だがそれも、彼は流していく。
「なんか、冷たいね……」
「冷たいとか言うな。契約ってそんなもんだ」
「でも、契約って言ってもさ。私、言われたとおりに本をちゃんと読むかどうかわからないよ? サボるかもしれないよ? 今後も私を監視したほうが――」
「アカリ」
名前を呼ぶ一声だけで、アカリは言葉が出なくなった。
ミナトの声に、悲しそう
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