第二章 旅は魔本とともに
第10話 喜んでもらえて、よかった
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思議なものである。
ミナトは「よーし」と言うと、積もったがれきをどかし始めた。
軽々と、という様子ではないが、しっかりと持ち上がっている。
アカリは温かさの残る魔本を握りながら、それを見守った。
* * *
帰りの特急列車は、地震の影響で多少の遅れはあったものの、きちんと動いていた。
「あー、楽しかったな!」
進行方向に向かって左側の二人掛け席。その通路側から、ミナトがそう言った。
「どうした? アカリ。ムスッとして」
「んー……」
「ああ。この旅ってそういう意味の旅行じゃなかったな。悪い悪い。懐かしさに浸るための旅だったよな」
そう言われて、アカリはこの旅の動機を思い出した。
当のアカリ本人が驚いた。すっかり忘れていたのだ。
「いや、楽しかったよ。なんかさ、懐かしいよりも楽しいのほうが大きかった」
これは本当だった。
特に、二つ目に行った洞窟。冷たい水が足元を流れ続け、難所が数多く待ち受けているという過酷な条件のなか、最奥まで到達したことは大きな達成感があった。
この旅はきっと、この先も楽しい記憶として残るだろうと思った。
事故はあったけど、守ってもらったしね――と、右にいる彼の顔を見る。
「それでいいんじゃないか? お前のじいさんだって、きっとそのほうが喜ぶと思うぞ」
いつのまにか、過去を探す旅が、今の楽しみを見つける旅に変わっていたのだ。
そうなったのはきっと――。
「あんたのおかげだね。でも……」
「でも?」
「ちょっと背中、見ていい?」
「なんだいきなり? 悪魔の背中を見るのはダメだぞ? 一生かけても払いきれない見物料を……あ、こら。見るなって」
彼の背中に手をまわして強引に背もたれから剥がすと、タンクトップの裾を上げた。
きれいな褐色肌があらわになったが、よく見ると、背中の左下にやや発赤している部分があった。
「やっぱり。全然平気そうだったから言わないでいたけど。なんかそんな気はしてたんだよね。石ぶつかったんでしょ? 少しうめき声みたいなのが聞こえた気がしたから」
「こんなのどうでもいいって。今はもう痛くもねえし」
丁寧にアカリの手を離れさせると、彼はタンクトップを戻した。
「本当に大丈夫なの? そのぶんだと羽もボロボロなんじゃないの?」
「大丈夫だって。人間と一緒にされても困るぞ。空を飛べるくらいだから、しょっちゅういろんなものにぶつかってるって。悪魔はすぐ傷が再生するから平気だよ」
「なら、なんで隠そうとしたのかな」
「見たらお前が気にするだろ」
「……」
「ん。どうした」
「なんかもうね、あんた最高じゃん」
「今ごろ気づいたのかよ。最初に会った
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