暁 〜小説投稿サイト〜
黄泉ブックタワー
第二章 旅は魔本とともに
第9話 これがいいきっかけになれば、嬉しいな
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
「変にノるのやめて!」

 ミナトの言葉どおり、足がマヒしたのか次第に皮膚感覚がなくなっていった。
 冷たい・痛いという感覚がなくなるのは、それはそれで怖い。だが随意運動は受け付けてくれているようで、足はしっかり動く。
 これ以上気にしないことにした。

「ここは『胎内くぐり』です。狭いですので、気をつけてどうぞ。まず案内人の僕が通ります」

 え、これ本当に通れるの? それがアカリの第一印象だった。
 トンネルの天井が水面スレスレまで下がっている。しかも意外に距離が長そうだ。

 ひるむアカリの前で、ガイドの若い男が「では見ていてください」と四つん這いになる。

「――!」

 彼はまるで三億年の歴史を誇る某昆虫のように、ササっと抜けていった。
 もちろんアカリとしては真似できる気がしない。

「ちょっと! これ無理だって!」
「アカリ、自力で抜けたら多分楽しいぜ。後ろで見ててやるから、やってみ」
「えー……」

 仕方なく、案内人と同じように四つん這いになった。
 すでに感覚のない足だけでなく、手のほうも水に浸かることになる。冷たい。
 水面から頭一つ分程度しかないと思われるくらいの、狭い隙間。
 突っ込んでいく決心がなかなか固まらない。

「アカリ、どうした? お尻でも叩こうか?」
「お断りします」

 意を決して進んだ。
 途中、不用意に頭を少し上げてしまい、鈍痛が走る。

「アカリ、大丈夫か?」
「大丈夫!」

 ふたたび頭をぶつけないよう、振り返らずに答え、進む。
 やはり結構な長さだった。
 が、なんとか抜けることに成功。

「よっしゃ抜けたああっ!」

 ガッツポーズしていたら、後ろから「アカリー」とミナトの声。
 振り向いてパチンとハイタッチ……してから気がついた。
 苦労して抜けてきた胎内くぐりを、彼は難なく通ってきていたのだ。しかも片手には魔本を持ったまま、である。

「ちょっと、ミナト。なんであんた簡単に抜けてきてるの」
「なんでだろ。悪魔だから?」
「悪魔言うな! むぅ、せっかくの達成感が」
「いえ、あなたも平均的な観光客さんよりずっとスムーズでしたよ」

 案内人が笑いながらフォローを入れてきた。

「え、ホント? お世辞じゃない?」
「本当です」
「よおおおおっし!」

 ふたたびミナトとハイタッチし、先に進んだ。



 案内人必須とされているCコースに入ると、さらに厳しい世界が待ち受けていた。
 かなり入り組んでおり、まっすぐ歩けるところはほとんどなくなった。

 洞の断面も円形ではなく、おそらく傾斜のある亀裂のような形状であると思われた。斜め上には、ヘッドライトを向けてもなお不気味な闇がある。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ