第二章 旅は魔本とともに
第9話 これがいいきっかけになれば、嬉しいな
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「変にノるのやめて!」
ミナトの言葉どおり、足がマヒしたのか次第に皮膚感覚がなくなっていった。
冷たい・痛いという感覚がなくなるのは、それはそれで怖い。だが随意運動は受け付けてくれているようで、足はしっかり動く。
これ以上気にしないことにした。
「ここは『胎内くぐり』です。狭いですので、気をつけてどうぞ。まず案内人の僕が通ります」
え、これ本当に通れるの? それがアカリの第一印象だった。
トンネルの天井が水面スレスレまで下がっている。しかも意外に距離が長そうだ。
ひるむアカリの前で、ガイドの若い男が「では見ていてください」と四つん這いになる。
「――!」
彼はまるで三億年の歴史を誇る某昆虫のように、ササっと抜けていった。
もちろんアカリとしては真似できる気がしない。
「ちょっと! これ無理だって!」
「アカリ、自力で抜けたら多分楽しいぜ。後ろで見ててやるから、やってみ」
「えー……」
仕方なく、案内人と同じように四つん這いになった。
すでに感覚のない足だけでなく、手のほうも水に浸かることになる。冷たい。
水面から頭一つ分程度しかないと思われるくらいの、狭い隙間。
突っ込んでいく決心がなかなか固まらない。
「アカリ、どうした? お尻でも叩こうか?」
「お断りします」
意を決して進んだ。
途中、不用意に頭を少し上げてしまい、鈍痛が走る。
「アカリ、大丈夫か?」
「大丈夫!」
ふたたび頭をぶつけないよう、振り返らずに答え、進む。
やはり結構な長さだった。
が、なんとか抜けることに成功。
「よっしゃ抜けたああっ!」
ガッツポーズしていたら、後ろから「アカリー」とミナトの声。
振り向いてパチンとハイタッチ……してから気がついた。
苦労して抜けてきた胎内くぐりを、彼は難なく通ってきていたのだ。しかも片手には魔本を持ったまま、である。
「ちょっと、ミナト。なんであんた簡単に抜けてきてるの」
「なんでだろ。悪魔だから?」
「悪魔言うな! むぅ、せっかくの達成感が」
「いえ、あなたも平均的な観光客さんよりずっとスムーズでしたよ」
案内人が笑いながらフォローを入れてきた。
「え、ホント? お世辞じゃない?」
「本当です」
「よおおおおっし!」
ふたたびミナトとハイタッチし、先に進んだ。
案内人必須とされているCコースに入ると、さらに厳しい世界が待ち受けていた。
かなり入り組んでおり、まっすぐ歩けるところはほとんどなくなった。
洞の断面も円形ではなく、おそらく傾斜のある亀裂のような形状であると思われた。斜め上には、ヘッドライトを向けてもなお不気味な闇がある。
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