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黄泉ブックタワー
第二章 旅は魔本とともに
第9話 これがいいきっかけになれば、嬉しいな
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に、学生アルバイトと思われる若い男性案内人に導かれ、洞へと突入した。



「ちょっと。何これ? 天岩洞と全然違うんだけど?」

 内部は狭いうえに、暗かった。ところどころ明かりが灯ってはいるが、照らそうという意志を感じるまでの明るさではない。
 さらに、そこかしこで水が流れていた。縞鋼板(しまこうはん)の足場の下が川のようになっていたり、壁面から地下水が噴き出していたり、といった具合だ。

 滝のような音がけっこうなボリュームで聞こえ続けるなか、案内人を先頭に、アカリ、ミナトの順番で進んでいった。



 Aコース部分を抜けてBコースに入ると、足場や照明がなくなり、ほぼ自然なままの洞窟となった。
 凹凸に富んだ床は歩きづらく、ちょくちょくゴム草履の紐部分が足の指にくいこんだ。痛い。

 狭い洞内の壁面は、いたるところで雫が垂れており、ヘッドライトの光で冷たく輝いている。他の観光客の気配もなくなり、孤独感も増した。

 観光鍾乳洞という印象はまったくなく、ガチの洞窟。
 これはこれで、悪くはないのか?
 そう考える余裕があったのは、Bコースの序盤だけだった。

「足が冷たい!」

 水たまりなどのレベルではない。Aコースと異なり、足がどっぷり浸かるほどの水が床を満たしていた。しかも流れがある。
 地下に流れる川の中を、その流れに逆らって進む――そんな感じだ。

「水温は十度くらいです。一年を通してあまり変わりませんね」
「ひええ……」

 刺すような冷たい水が、アカリの体温を容赦なく奪っていく。

「最奥まであと700メートルくらいですが、ほぼ水に浸かりながらになります」
 と案内人から告げられると、事前に一言も知らされていなかったアカリは、後ろのミナトを睨みつけた。

「ははは。アカリ、冷たくて気持ちいいだろ」
「……冷たすぎてむしろ痛いんですけど?」
「大丈夫。旅館のおばちゃんの話だと、すぐマヒして冷たく感じなくなるらしいぞ」

 怨嗟(えんさ)を込めた抗議もあっさりとかわされた。
 そして同時に、どうやらミナトは旅館の女将に対し、この鍾乳洞に行くことを相談していたであろうことがわかった。

「でもアカリ、この洞窟は『生きている』って感じがするだろ? 鍾乳洞って水に溶食されてできるものだからな」

 前を歩いている案内人が振り返り、「彼氏さんは詳しそうですね」と笑った。

「この人は本でガンガンに予習してきただけです。あと彼氏じゃないですので」
「彼氏さんという感じもしますが、ご家族のような感じもしますね。いい雰囲気でうらやましいです」
「せっかくちゃんと否定してるんで、スルーやめてください」
「案内人の兄ちゃん、いいカンしてるな! どっちも正解!」

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