第二章 旅は魔本とともに
第8話 自分の手でよければ、いくらでも
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話、ミナトにしてたっけ?」
体調が悪いとは言っていたが、ストレスどうこうと言った覚えはない。なぜ知っているのだろうと思った。
すると、ミナトは少し沈黙を置いてから、答えてきた。
「お前の親が言ってた」
「あー。なんかうちの中を探検とか、すごい気持ち悪いことしてくれてたもんね」
アカリはそのときのことを思い出した。
両親がそんな会話をしているのを、ミナトも直接聞いたと言っていた。原因がストレスであるという話も出ていたのだ。
「まあでも私、別に血を吐いたわけでもないし、高熱が出たわけでもないし、ぶっ倒れたわけでもないし。単に気分が沈んで、体が重くて、夜眠れないっていうだけだから。甘えって言われたらそれまでなんだよね」
だが、ミナトは「はいそうですか」とは終わらなかったようだ。
「塔に帰ってから、人間の健康のことを調べたけどよ。ストレスで体調崩してるなら、それは病気だよな。俺は甘えってわけじゃないと思うぞ?」
アカリの耳に、意外なセリフが流れ込んできた。
せっかくつけてもらったアイマスクを、思わず外してしまった。
体も横に向け、ミナトの顔を見る。
「ん、どうした?」
「……ねえ、明日東京に帰ったら、すぐに契約終了なの?」
「そうだぞ?」
ミナトは契約のルールを説明し始めた。
願いの内容を履行し、契約をした場所――今回の場合はファーストフード店――から一定範囲内に入ると、契約終了となるそうだ。
「ふーん」
アカリとしては、契約終了の条件に興味があったわけではないので、適当に返した。
体を仰向けに戻す。だが顔はミナトに向け続けた。
「あれ、アイマスクはないほうがよかったか?」
「ううん。つけてたほうが寝やすい気はする」
「じゃあつけてろよ」
「いや外しとく。でもこれ、ほしい。もらっていい?」
「いいぞ? でも今日使わないなら、しまっとこうか?」
「いや、持ったまま寝る」
アイマスクの紐を左手に持ち、そのまま布団の中に潜らせた。
「……よくわけわかんねえけど、それがいいならそうするといいぜ」
「ありがとう。じゃあ、はい。右手のほうを、またよろしく」
薄い掛け布団を、より深くかぶるようにスライドさせると、その中で右手の甲を上に向け、二回ほど跳ねさせてアピールした。
「あんたが嫌じゃなければ、こっちが寝るまで外さないでおいてもらえると嬉しいな。おじいちゃんはそうしてくれてたから」
「あいよ。了解!」
ふたたび右手の甲を包む、温かい手。やはり落ち着く。
「……会ったときからちょっと思ってたけどさ。あんた、あんまり悪魔って感じじゃないよね」
「なんかそれ、親父にも言われたな」
また無邪気に笑う彼。
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