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黄泉ブックタワー
第二章 旅は魔本とともに
第8話 自分の手でよければ、いくらでも
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ので、すぐ隣がミナトの布団だ。

 仰向けで借りてきた本を広げており、顔だけこちらを向けていた。
 彼は最初、布団の上であぐら座りをしていた。しかし「これだとお前が気になっちまうよな」と言って、寝ている体勢で本を読んでいたのだ。

 この地方の自慢である星明かりと、廊下側の窓から入ってくる光源不明の光に薄く照らされた、彼の顔。
 もう目が暗さに慣れていたのでアカリにもわかったが、微笑を浮かべていた。掛け布団は使っていないようで、引き締まった腹部の上に魔本が置いてある。

「いつもの夜よりは少し眠気がある気がするけど……すぐには寝られなそう。なんか最近、夜になると頭が落ち着かなくなって、目が冴えちゃうんだよね。昼間は頭がボーっとして眠いのにさ」

「でも今日の昼間は別に普通に見えたぞ」
「今日は有休だしね。会社にいない日はちょっとマシ」
「ストレスにやられてるからなんだよな? 俺、人間じゃないから完全に理解してるわけじゃないけどよ」
「うん。ヘラヘラしてばっかりのあんたにはわからないかも」

 ここまで完璧な同伴者を演じてきたであろう彼に対し、この嫌味な言いかた。
 アカリは言い終わる前に罪悪感にかられた。

「あはは。そうかもな!」

 しかし、間髪を入れずに返ってきた無邪気な笑いが、それを吹き飛ばしてくれた。

「なあアカリ。お前のじいちゃんって、そういうときは何かしてくれてたのか?」
「さすがに物心ついてからは何も。だいたい部屋も違うし」
「ずっと昔は?」
「……あー。思い出しちゃった。小さいころは、眠れないときに、触ってもらった気がする」

 左前腕を両目の上に置き、記憶を辿っていた…………ところに、彼の「へえ」という声とともに、布団の中で自然に投げ出していた右腕が、風で一瞬だけ涼しくなった。
 そして右手の甲の上に、温かく乾いたものがフワッと乗る。

 いつも魔本を握っている、ミナトの左手だ。

 見ると、彼はいつのまにか仰向けではなく、横向きになっていた。
 腹部に乗っていた魔本は、そのまま前に落ちていた。

「まだ手とは言ってないでしょ……」

 その抗議にも、彼は手を引っ込めなかった。
 そしてアカリも、手を引こうとは思わなかった。

「ああ、そうだよな。悪い悪い。でも正解なんだろ」

 彼が笑いながら言っているとおり、記憶が確かならば、祖父が触ってくれていたのも手だったのだ。

「ま、正解。あんたカンがいいね。おじいちゃんは手を重ねてくれてた」

 素直に降参し、悪魔の厚意を受け取ることにした。
 そのまま目をつぶる。

「アカリは、おじいちゃんっ子ってやつなんだな?」
「たぶん、そう」
「俺だと完全な代わりにはならないと思うけどよ……少しは
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