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黄泉ブックタワー
第二章 旅は魔本とともに
第7話 いい気分、なのかな
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いる左手だけで魔本を開き、器用にめくっていく。

「えーっと。アカリ、世界でもっとも不要な眼鏡は色眼鏡だ。人を見るときは先入観を取っ払って――」
「ハイハイ。いちいち魔本読み上げのお説教はいらないってば。しかも人じゃなくてコウモリだし」
「ははは。そうだな」

「というか、なんでコウモリが懐いてるの? 普通は無理でしょ?」
「なんでだろ。悪魔だから?」
「……すごい説得力あるけど。でもここは他の人たちもいるし、そういうことしてると周りの人たちがドン引きしちゃう…………って、あれ? そういうわけでもないみたいだね」

 広い天岩御殿には、パッと見たところ二十組以上の観光客がいた。
 だがこの異常事態を見ても、悲鳴をあげるわけでも気持ち悪がるわけでもなく。
 皆笑いを浮かべながら、物珍しそうに見ていた。

「お兄さん、スマホで撮ってもいいですか?」
「いいぜ! 撮影は自由!」

 カップルと思われる若い男女が近づいて撮り始めると、他の組も続いた。
 家族連れもいて、子供は大変に喜んでいるようだった。

「なんだかなあ。人間ってよくわからないなー。得体の知れない人によく自分から近づけるよね」

 一通り対応が終わり、ミナトがコウモリたちをどこかに去らせると、にぎやかな輪を外から見ていたアカリは、そんなことをぼやいた。

「お前の目には、俺は悪い奴に見えるのか?」

 彼は除菌ウエットティッシュを出して手を拭きながら、そんな聞き方をしてくる。

「んー、得体は知れないけど、今のところ悪い人には全然見えない」
「実際悪くないからな! けどお前だって、俺から見ると悪い人間には見えないぜ?」
「私には人もコウモリも近づいてこないけどね」
「俺にはそれが不思議なんだけどな」
「いや不思議じゃないよ。私だって私に近づきたくないかもしれないし」

 首をひねっているミナトの仕草は、本当に不思議がっているように見えた。
 だがアカリとしては、長年の付き合いである自分のことは、ある程度わかっているつもりだ。ついつい自虐的な言葉も出てきてしまうというものだった。

「あんまりそうやってネガティブなことを言わないほうがいいぞ?」

 またミナトの左手の魔本が開いた。

「ええとだな。人間の世界って、言葉の積み重ねでできてるんだ。だから言葉は大事にしないといけない――」
「はーい。それは少しピントがズレてると思いまーす」
「そうか?」
「そうです」

「じゃあ、アカリはちょっと笑顔が少ないと思うから、これかな。人間は笑いが伝染する生き物なんだ。相手に笑ってほしかったら、まず自分が笑えばいい――」
「それもちょっとズレてるような……。しかもさ。それ難しいよ。つまらないときは笑えないって」
「ふむ
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