第二章 旅は魔本とともに
第6話 頑張ることで、少しでも喜んでもらえるなら
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原であり、これから始まっていく地形だからという理由もあるのかもしれないと思った。
「私、高校のころの理科は地学じゃなくて生物を取ってたからなあ。全然知らなかった。でも、そういう知識ってさ、知っててもあまり役に立たないでしょ」
「そんなことないぞ? 人間だって自然の一部だからな。こういう自然の法則は、人生にもつながるんだ。特にアカリには参考になるはずだ」
首をひねるアカリの横で、ミナトが今度は魔本のほうを広げ、パラパラとめくる。
「ええとだな。ただ生きて同じことをしているだけだと、なだらかで起伏が少ない人生になるんだ。だから適度に刺激を求めていくことが大事なんだ。ほら、今の話と一緒だろ?」
「また説教臭い話に持っていく……。しかもそれ、魔本を読んでるだけでしょ? そんなのは全然響きませーん」
ミナトは「そう言われちまうとなあ」と、空いている右手で頭を掻きながら笑う。
「でも仕方ないだろ。俺、人間じゃないし。しかもまだ十七歳だぞ?」
「あ、やっぱり年下だったんだ。でも、悪魔なのに年齢があるとか、おかしくない?」
「おかしくないぞ。普通に年をとって、普通に死ぬ」
そこでまたミナトは魔本をチラッと見る。
「人生はロウソクのように限りがあるからな。だからアカリも無駄にしないで一生懸命――」
「ハイハイわかりました。鍾乳洞のほうに行くよ」
すでに一通り堪能した景色を見るのをやめ、アカリは展望台から降りようとした。
「あ、待てって。階段は俺が先に下りる」
「別にそんなの気にしなくていいって」
「いやいや。気にしないとダメだろ。男子たるもの紳士たれ、だな」
「どうせそれも本で見たのをそのまま言ってるだけでしょ」
「だから仕方ないだろって」
言い返してはくるが、やはり顔には爽やかな笑み。
彼の後に続いて、アカリも階段を下りていく。
「……」
下りる途中でも、展望台から景色を見たときに感じたものと同種の懐かしさが続いていた。
――昔に来たときも、こんな感じで祖父を眺めた気がする。
当時は背が低かったから、階段のおかげで祖父の肩が上から見られることを嬉しく思った。しかも見るだけでなく、上から飛びかかってもいたような――そんな記憶まで出てきた。
今思えば危険なことをしてしまったわけだが、祖父は笑っていたような気がした。
今見えているのは、彼の剥き出しになった褐色の肩。
祖父はどちらかというと色白だったし、ここまで筋肉もしっかりしていなかったと思う。
でもなぜか、それを見てもなお、懐かしかった。
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