第二章 旅は魔本とともに
第5話 実は、楽しみだから
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るようだったのである。
「下にいた、ちょっと痩せぎみの男と、髪の毛を後ろで縛ってた女の二人は、アカリの親ってことでいいのか?」
「そうだけど?」
「なんかお前が最近たるんでるとか言ってたぞ?」
「あー、最近ちょっと体調がよくなくてね。だからだと思う」
それについては面と向かって言われたこともあり、アカリにとっては特に驚くべきことではない。
「人間のことはよくわかんねえけど。体調が悪いなら普通心配するもんじゃないのか?」
「普通はそうかもしれないけどね。あの二人はそうじゃないみたいだよ」
ミナトがベッドの前で、カーペットの上にあぐらをかいて座る。
「へー。お前の親、厳しいんだな」
彼がベッドを勝手に背もたれ代わりにしているのを咎めるのも忘れ、アカリは頭の中で、学生生活をまとめた白黒フィルムを高速回転させた。
「まあね。子供のころからいろんなものを押しつけてくれてたよ。塾とか習い事とかね。学校の成績だって、ちょっと落ちただけで説教だったし」
「そんなに必死になる理由ってあんのか?」
「なんだろうね。私が一人っ子というのもあるだろうし、それに、おじいちゃんが学者でインテリだったのに、両親は二人ともそこまでの経歴じゃないから、コンプレックスでもあったんじゃないの? 今も『同期で一番早く昇進しろ』とか、『結婚するなら婿に来られる人で』とか、つまらないことを言われ続けてるけど……って、ミナトは昇進とか婿とか言われてもわからないか」
「何度か魔本で見かけた言葉だし、いちおうわかるぞ」
「へえ。まあそういうことで、そういう家なんです。ここは」
「……」
三日目以降も、ミナトは毎晩部屋に来た。
窓を叩き、部屋に入り、前日に借りていった本を返却すると、また部屋の本を漁り、その日に借りる本を決め、帰っていく。
アカリにとってはまったくつまらない本でも、彼にとっては大変面白かったようだ。
そして、旅行前日の夜――。
旅の準備が整ったタイミングで、また窓が叩かれた。
「結局毎日来たことになるけど。ミナト、あんたよっぽど暇なんだね」
「まあな! でも今日は挨拶だけだ」
中に入ってくることはなく、これまでで一番と思われる無邪気な笑顔だけ、網戸越しによこしてきた。
「明日からよろしくな! アカリ!」
「なんか、すごく楽しみにしてるように見えるんだけど? あまり行きたくないんじゃなかったの?」
「甘いなアカリ。えーっとだな……人生というのは、やりたいことができなくなったときが出発点なんだ。だから――」
「ハイハイ。もう魔本読み上げはいいから」
また魔本カンニングの説教が始まったので、アカリは途中でさえぎった。
なお魔本の表紙は、部屋の照明を反射
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