第二章 旅は魔本とともに
第5話 実は、楽しみだから
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下のカーペットへ着地した。
「何か拭くものはあるか?」
壁に背中を預け、足を浮かせてブラブラさせたミナト。
アカリは虫が入らないように窓を閉め、ウエットティッシュを取ってくると、仏頂面で彼の横にしゃがみ込んだ。足を拭き始める。
「お? 悪いな。拭いてもらっちまって」
「適当に拭かれたら嫌だしね。まったく、汚い足で女性の部屋に来ないでよ」
「いつもは汚くないぞ? 今日は素足で飛んできたから、屋根の上に足を付いちまったんだよ」
足裏からくるぶしまでを拭いたが、自己申告のとおりだと思った。
タコや水虫はなく、爪もきれいに切られている。
そしてアカリの目を引いたのは、ムラのない褐色肌が足の甲まで続いていたことだった。
靴や靴下に覆われる部分が白くなっていることもなく、まるで日焼けサロンで焼いたような一様な色なのだ。肌のきめも細かい。
「まあたしかに、いつもはきれいにしてそうな感じに見えるけど」
「だろー?」
ミナトは嬉しそうに笑うと、部屋をキョロキョロ見渡した。
アカリによる足拭きが終わると、「サンキュー」と言いながら机の横に置いてある本棚へと向かった。
「仮に清潔でも、いきなり部屋に来るということ自体が人間だと非常識だからね? 私はいつも親に言われて片づけてるからよかったけどさ。散らかってたら恥ずかしすぎるでしょ」
「お? この小説面白そうだな。読んでいいか?」
ウエットティッシュをくずかごに入れながら文句を言ったアカリだったが、見事に無視された。
「ちょっと、話聞いてる? ていうかそれ、全然面白いと思わなかったんだけど」
「そんなことないだろ? ここに名作っぽいことが書いてあるぞ」
本棚の前、あぐらで座り込んだ彼が手に取っているのは、本棚に入っていた本のうちの一冊。
そのカバーの上から巻かれている帯には、『日本文学の金字塔』と書かれていた。
しかしアカリからすれば、そんなこと言われても面白くありませんけど? である。
「私にはつまらなかったの。ま、子供のころに文学を無理やり読まされて、もう生理的に無理ってのもあるけど」
「へー。アカリが本嫌いなのは、ちっちゃいころに無理強いされたからなのか」
「そういうこと」
「もったいねえな。本には書いた人の人生が詰まってるのに」
「人生が詰まってるのは、あんたたちの魔本でしょ? 普通の本は関係ないじゃない」
アカリは、ミナトの腿の上に置かれている魔本を指さした。
彼と二回目に会ったときに、魔本一冊だけで一人分の人生記録を詰め込めるからくりについて、説明を受けている。
本魔の文字は人間のそれよりも高密度であり、文字一つに膨大な量の情報が入っているとのこと。
「いや、アカリ。人間の本
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