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黄泉ブックタワー
第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第4話 断られた
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 ミナトはドヤ顔で親指を一回立てると、頼んでもいないのにわざわざクルっと一回転した……が、真っ黒なタンクトップを外で見せられても、アカリの目からはよくわからない。

 ただ、背中で羽が生えていた部分には、切れ込みが入っていることが判明した。どうりで羽を生やしたときに破れなかったわけである。

「じゃあ……あ、そうだ。ねえ、ちゃんとお風呂は入ってるの?」
「それも当たり前だろ。塔の中には風呂もある」
「え? その年でお姉さんと入ってるの?」
「……」
「……」

「なめてんのかコラ」
「気づくの遅!」
「うるせー。俺は一人っ子だよ! ていうか、悪魔は悪魔でも、本魔は本を扱うから清潔なんだ。人間と違ってあまり汗かかないしな」
「あっそ。本当であることを期待します。一緒に旅に行く人が不潔なのは嫌だしね」

 なんとなく、からかってはみたが。
 彼の顔や体の露出部分には、ここまで一滴の汗も見ておらず、肌のテカリもまったくない。アカリは、この褐色青年の言うことが嘘だとは思わなかった。

「本当だよ。たぶん俺、人間よりもきれい好きだと思うぞ。ほら、スマホだっていつも拭いてるから液晶画面も――」
「あ!」

 目の前に差し出されたスマートフォンのロック画面を見て、アカリは時間をすっかり忘れていたことに気づいた。

「どうした?」
「やばい。もう時間だった。会社に戻らないと」
「ああ、昼休みが終わるのか。じゃあ旅行の日にちだけ教えてくれよ。あんまり先だと俺も困るんで、なるべく早めに行けると助かる」

「うーん、有休の申請をするから、今ここで確定ってわけにはいかないけど。来週の水曜日と木曜日あたりは?」
「来週かよ!」
「そりゃそうだよ。そんなに急に有休取ったら怒られちゃう」

「んー、そうか。じゃあ火曜日と水曜日にしてもらえないか? 木曜日は俺の誕生日だからな」
「悪魔のくせに誕生日にイベントやる文化でもあるの? まあ別にいいけど。じゃあ、今日中に上司に申請するから。明日の昼に、またここであんたに報告ってことでいい?」
「わかった。んじゃ仕事頑張れよ!」

 笑顔で手を振るミナトに、アカリは「嫌なことは頑張らない主義なの」と言い捨て、会社へと急いだ。

 汗だくで会社に戻ったときには、午後の始業を微妙に過ぎてしまっていた。
 先輩社員から小言を頂戴したことは言うまでもない。
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