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黄泉ブックタワー
第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第3話 なんで、いないんだ?
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。この本の元になった魂の持ち主の名言らしいな。『プロゲーマー』とかいう職業だったみたいだな」

 このタイミングでゲーム中でおこなわれたと思われる名言、しかも少しピントがズレているものを出してくるのはどうなの? とアカリは一瞬思った。
 だがすぐに、そんな突っ込みがどうでもよくなるくらいの重大なことに気づいた。
 すなわち、『この本の元になった魂』という彼の言葉である。

「まさか、その本って。辞書じゃなくて?」
「ああ、たぶんお前が今想像したとおりだ。これは死んだ人間の魂を製本した『魔本』なんだ。その人間の歴史とか、知識とか、人生哲学とかが、これ一冊に全部詰まってるんだぜ」

 青年はその分厚い本を、胸の前で見せるように開いた。

「――!」

 横書きで段落の字下げもなく、小さな文字がびっしりと書き込まれていた。
 しかもその文字は、明らかに日本語でも英語でもない。これまでに見たこともないような種類の文字だった。

 アカリは驚き、目を見開いた。
 しかし本魔≠ニいうくらいである。特殊な魔本を持っていてもおかしくはないのかもしれないし、日本語でも英語でもない文字を使っていてもおかしくないのかもしれない。

 すぐに頭は切り替わった。

「じゃあ話戻すけど。対価の中身はなんなの? 事前に聞かないとフェアな契約じゃないよね」
「ああ。願いを叶える代わりに……」
「代わりに?」
「お前のこれからの人生で、もっと本を読んでほしいんだ」
「はい? そんなんでいいの?」
「いや、それ、俺らにとってはまあまあ大事なんだ」

 怪しむアカリに対し、青年は真剣な表情のまま、身振り手振りまじえて話し始めた。

 本魔とはその名のとおり本の悪魔であり、普段はあの黒い塔の内に居住していること。
 蔵書の魔本を読んで人間の知識を吸収することができ、それが塔内の文明レベルを支えていること。
 人間の魂から魔本を生成する際には、副次的にエネルギーも産生され、その一部を使って塔が運用されていること。そのため、常に新しい魔本の生成を必要としていること。
 魔本のもとになるのは死んだ人間の魂の一部だが、百パーセントが魔本になるわけではなく、生前に読書好きで読書量が多いほど率が高まること。

 そのようなことを青年は説明していった。
 ちなみに、塔の蔵書となった魔本については、書庫内で閲覧できるほか、一冊ずつであれば外への持ち出しも自由らしい。

「なんとなく理解したけど。もしかして、あんたが現れたのは、私が本嫌い≠セったからなのかな?」

 本嫌いを自覚していたアカリは、そう聞いてみた。

「あー、まあ、そうだよ。このままだとお前は魔本にならない。お前みたいな人間ばかりになっちまうと、俺らの塔が困ること
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