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黄泉ブックタワー
第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第2話 きっと、いい人間だ
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じような関係になるだけだろうと思っていた。

 まあ、自覚しているのに変わろうとしない自分もどうなのかなと、アカリは心の中で自嘲する。

「せっかくなのに悪いけど、悪魔にお願いしたいこと、別にないんだよね」
「ない?」
「うん。苦手な人はいるけど。殺したいとまでは思わないし、病気にしたいとかそんなことも思わないし」

 そう言ってアカリがアイスコーヒーのストローに口をつけると、青年は少し慌てたように、両手を前に出した。左手に持っていた本は膝の上に置いてあるようだ。

「おいおい、なんか勘違いしてないか? そんな願いじゃなくて普通の願いで頼むぞ」
「あ、そうなんだ」
「そうだぞ。でも、殺したいとか病気にしたいとか思わないってことは、アカリは優しい人間なんだな」
「え。なんか大真面目にそういうの言われるの、恥ずかしいんだけど?」

 唐突に誉め言葉を言われたので、調子が狂った。思わず横の窓のほうに顔を逸らしてしまう。
 気を取り直して願いごとを考えることにしたが、やはりうまいものは浮かんでこない。

「うーん、思い浮かばないな。適当だけど、やる気が出ますように、は?」
「抽象的すぎて無理だな。他ので頼む」
「じゃあ、いい気分になれますように」
「お前変なクスリやってないか? 大丈夫か? それも無理だよ。もっと具体的なもので頼むぞ」

「なんかめんどくさいね。具体的にって、たとえばどういうの?」
「札束をくれとかだったらできるぞ。ポンと出せる。人間はそういうのが好きなんだろ?」
「いや、別にいらないし。未婚だし親と同居してるから、貯蓄は勝手に増えてくよ。それに、お札って番号振られてるはずだけど? どっかからワープさせるのかゼロから作るのか知らないけど、どちらにしろ犯罪になると思うよ?」
「む、そうなのか。じゃあ金塊が山ほどほしいとかでもいいぞ。たっぷり出せる」
「どこに置くのよそれ。うち置き場ないよ」

 二連続で問題点を指摘すると、ミナトは降参した。

「やっぱり人間じゃない俺が考えてもだめかー。なんとかお前がひねり出してくれよ。俺がちゃんと叶えるから」

 投げ返ってきたボールを受けると、アカリは両腕を組み、ふたたび考え込んだ。
 だがやはり、願いが思い浮かばない。ほしいものがない。
 自分は欲がない人間。無欲無私、高潔無比。素晴らしい人格者なのだ……というわけでない。

『人生に希望が持てていないので、なんかもう、どうでもいい』
 少し大げさではあるが、そう思っていたからである。



 どうも自分は、この世の中に合わない体質になってしまっているのではないか――強くそう感じていた。

 エリート主義の両親により、小中学生の頃は塾と習い事漬け。高校生になっても一年生から予備
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