疾走編
第三十二話 それぞれの任務
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宇宙暦791年5月23日12:30 アイゼンヘルツ星系、アイゼンヘルツ、アイゼンヘルツ宇宙港15番ゲート
ワルター・フォン・シェーンコップ
この土地に来たのは二十年ぶりの事だ。今回もその時も好き好んで此所に来た訳ではない、今は任務として、二十年前は亡命する時だ。
この星の侘しい感じと、フェザーンに向かう貨客船に乗り込む時に祖父母が肩を震わせて泣いていたのを覚えている。祖父母は何故亡命したのだろう、六歳の俺には理由など解らなかった。そして、それを俺から聞く事も無くまた祖父母から教えてくれる事も無いまま、二人とも死んでしまった。
「相変わらず不景気な所ですね」
「そうだな、昔と何も変わっちゃいない」
俺の言葉にマイク以外の四人が頷いた。とりあえず昼食という事で到着ロビーにあるレストランに入る。
帝国軍の制服を着ているのは俺とマイクだけだ。ウィンチェスターが折角容易してくれたが、こんな田舎の宇宙港のレストランに帝国軍の制服が五人も固まっていたら、逆に目立ってしまう。
「少佐は何年ぶりですか、帝国は」
「二十年ぶりになるな。リンツ、お前は」
「私もそれぐらいなんですかね。まだ母親のおっぱいを飲んでいた頃なんで、何も覚えてはいませんが」
「ハハ、中尉、じゃあなんであの頃と変わってないって分かるんです?」
「実家に絵があるのさ、デッサンだけの。出港を待つ間に俺の母が描いたものだそうだ。ここの風景と瓜二つなんだよ」
「へえ。じゃあ中尉の絵の才能は中尉のお母さん譲りなんですね」
そう言いながらブルームハルトがリンツのメモ帳を覗き込んだ。リンツはマイクを見ながらペンを動かしている。
「俺を描いてくれてるんですか?光栄だなあ」
マイクの階級は大尉だ。当然リンツやブルームハルトにへり下る必要はないが、やつはその口調を改めようとはしない。
“階級は俺の方が上ですがね、経験も技量も皆さんの方が上なんです。大尉だ、なんてふんぞり返って居られませんよ”
「亡命や捕虜以外で純粋な同盟生まれの人間が帝国に来た、なんて、大尉が初なんじゃないかと思いまして。その記念にと」
「おお、似てる似てる。でも、せっかく帝国軍の制服を着ているんだから、もう少し二枚目に描いてくれてもいいのに」
「追加料金が発生しますよ、大尉」
「夫人は予定通り来ますかね」
俺とマイクはそのままレストランに待機している。デア・デッケンとクリューネカーが展望フロアから到着ロビーを監視し、リンツとブルームハルトはロビーで到着ゲートを見張っている。
「来なければ、待つだけだ。しかしまあ…お前の帝国語はひどいな」
「す、すみません」
喋るんじゃないぞ、と言いながらザワークラウトに手を付けようとした時、耳元が鳴った。監視チームの無線は俺もマイクも傍受している。
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