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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
疾走編
第三十二話 それぞれの任務
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帝国暦482年5月23日18:00 フェザーン中央区 フェザーン自治領主府 アドリアン・ルビンスキー

 「…現在、対象者二名は『アルファ・ケンタウリ』にて食事中です。行動確認の経過は以上となります、自治領主閣下(ヘル・ランデスヘル)
「ご苦労、ボルテック補佐官。担当者にはボーナスを弾んでやってくれたまえ」
「はい、閣下。しかしあの二人を尾行する必要があるのでしょうか?」
「君はその必要が無い、と?」
「はい。二人の任務は福利厚生のパターン採取、と報告を受けておりますし、行動確認の途中経過からもそれは伺えます。むしろアイゼンヘルツに向かった五人に尾行を付けた方がよかったのではと…何かあれば助け船を出して恩を着せる事が出来るかもしれませんし」

 目の前にいるのは新任の補佐官、ニコラス・ボルテック。そういえば私も新任の自治領主だったな。
しかし、こいつは本当にそう思って助言しているのだろうか?まあいい、こちらから尋ねないと何も言わない報告だけの補佐官よりはよほどマシというものだ。
「わざわざフェザーンの者です、と正体を明かして手伝えと言うのか、君は?」
「はい」
「逆効果だろうな。アイゼンヘルツに向かった五人の経歴を見たか?」
「はい、同盟屈指の陸戦部隊の隊員です。それが、何か」
「では分かる筈だ、彼等は護衛任務でアイゼンヘルツに向かったのであって、諜報任務についているのではない。軍人で、しかも生粋の戦闘員なのだ」
「はい」
「そこに我等の手の者が表れる、しかもわざわざ正体を明かしてだ、どういう反応をすると思うかね?」
「…分かりません」
「殺すだろう、護衛の邪魔なのだから。私は必要な犠牲は許容するが、不必要な犠牲は求めてはいない。その点は君もそうだろう?」
「…はい」
「既に監視はつけてある。気にせずともよい」
「…そうでしたか。差し出がましい事を申しあげました、申し訳ありません」
「いいのだ補佐官。そこで本題に戻るが、補佐官はあの二人の経歴に目を通したかね?」
「…はい」
「では何故彼等に尾行をつけると思うかね?分からないと言うのなら…」
「補佐官失格、ですか?」
「いや、そうではない。それは分からないのではなく、失点を恐れて自分の考えを述べていないだけだ。私も新任自治領主で、君も新任補佐官だ。当然お互いをよく知らないのだから、お互いがどういう考えをするか分からないのも当然だ。そして補佐官という仕事は、他人がそれについてどう考えるか、という事を私に教えるのが仕事だ。理解できるかね?」
「はい。私があの二人の経歴を見てどう思うか、という事ですね」
「そうだ。だから私の考えが分からなくてもよいのだ、今はな」
「はい」
「明日の昼食の時にでも、再度途中経過を報告してくれ。その時にでも、君なり
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