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黄泉ブックタワー
第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第1話 初めてだった
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「俺は本物だぞ? 悪魔の一種の本魔ってやつ。本に悪魔って書いて本魔」
「本魔だから本を持ってるってわけ? ホンマに成り切り具合が素敵やね」
「お前、信じてないだろ……。俺はあの塔の上層から、空を飛んでここに降りてきたんだよ」

 彼が指で示したのは、アカリが驚かされた、黒い塔。

「そう言われても信じられるわけないでしょ。いつ建ったのか知らないけど、あんな高さの塔の上層から飛び降りたら、普通死ぬって」
「じゃあ、飛べることを証明できれば信じるのか?」

 犬歯を覗かせながら、少しニヤリと笑い、腕を組む青年。

「は? どうせちょっとジャンプして飛べたとか言うんじゃ…………え?」

 適当にあしらうはずのそのセリフは、最後までは言えなかった。
 音もなく、彼の背中から左右に、真っ黒な羽が広がったからである。

「ええええ――――?」

 アカリの大きな声が、真っ昼間の秋葉原にこだまする。
 それは真っ黒で、膜状で。悪魔のイメージそのものの羽だった。
 早足で通り過ぎていた人たちが足を止め、顔を向けていたが、アカリの目には入らなかった。

「え、何これ? どういうこと?」
「へへっ。お前みたいな奴のことをな……うん、これかな。『夏虫疑氷』って言うんじゃないか?」

 青年は手元の本を見ながらそんなことを言うと、背中の羽を羽ばたかせた。

「えええっ? と、飛んでるし……」

 不気味なほど穏やかに上空に昇っていく青年。なぜか風圧もなく、アカリの長めの髪もほとんど揺れることはなかった。
 青年は、信号機と同じくらいの高さで止まった。
 そして太陽の光をいっそう浴びながら、夏の青空を背に、爽やかに笑っていた。

 しばし呆然としたアカリだったが、電車と思われる警笛が遠くから聞こえると、ハッと我に返った。

「あっ! ちょっと! 降りてきて!」
「ん? もっと見なくていいのか?」
「いいから早く!」

 青年はゆっくりと羽ばたきながら、ふわっと着地した。

「どうした?」
「どうしたじゃないでしょ! 周りの人たちに見られてるって! その羽も早くしまって! 警察来ちゃったらどうするの!」

 いつのまにか、大勢のギャラリーに囲まれていた。
 詰め寄るアカリに対し、青年は親指を立てた。

「そのへんはちゃんと考えてるぜ。俺、今は姿消してるから。お前にしか見えてないはずだ」
「は?」

 アカリはあらためて周囲を見渡す。
 言われてみれば、ギャラリーの視線は悪魔の羽を生やした青年ではなく、アカリのほうに集中しているように見えた。

「も、もしかして、声も?」
「ああ。俺の声も、今はお前にしか聞こえてないはずだぞ?」

 そのあっけらかんとした口調は、アカリの
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