第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第1話 初めてだった
[3/4]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
」
「俺は本物だぞ? 悪魔の一種の本魔ってやつ。本に悪魔って書いて本魔」
「本魔だから本を持ってるってわけ? ホンマに成り切り具合が素敵やね」
「お前、信じてないだろ……。俺はあの塔の上層から、空を飛んでここに降りてきたんだよ」
彼が指で示したのは、アカリが驚かされた、黒い塔。
「そう言われても信じられるわけないでしょ。いつ建ったのか知らないけど、あんな高さの塔の上層から飛び降りたら、普通死ぬって」
「じゃあ、飛べることを証明できれば信じるのか?」
犬歯を覗かせながら、少しニヤリと笑い、腕を組む青年。
「は? どうせちょっとジャンプして飛べたとか言うんじゃ…………え?」
適当にあしらうはずのそのセリフは、最後までは言えなかった。
音もなく、彼の背中から左右に、真っ黒な羽が広がったからである。
「ええええ――――?」
アカリの大きな声が、真っ昼間の秋葉原にこだまする。
それは真っ黒で、膜状で。悪魔のイメージそのものの羽だった。
早足で通り過ぎていた人たちが足を止め、顔を向けていたが、アカリの目には入らなかった。
「え、何これ? どういうこと?」
「へへっ。お前みたいな奴のことをな……うん、これかな。『夏虫疑氷』って言うんじゃないか?」
青年は手元の本を見ながらそんなことを言うと、背中の羽を羽ばたかせた。
「えええっ? と、飛んでるし……」
不気味なほど穏やかに上空に昇っていく青年。なぜか風圧もなく、アカリの長めの髪もほとんど揺れることはなかった。
青年は、信号機と同じくらいの高さで止まった。
そして太陽の光をいっそう浴びながら、夏の青空を背に、爽やかに笑っていた。
しばし呆然としたアカリだったが、電車と思われる警笛が遠くから聞こえると、ハッと我に返った。
「あっ! ちょっと! 降りてきて!」
「ん? もっと見なくていいのか?」
「いいから早く!」
青年はゆっくりと羽ばたきながら、ふわっと着地した。
「どうした?」
「どうしたじゃないでしょ! 周りの人たちに見られてるって! その羽も早くしまって! 警察来ちゃったらどうするの!」
いつのまにか、大勢のギャラリーに囲まれていた。
詰め寄るアカリに対し、青年は親指を立てた。
「そのへんはちゃんと考えてるぜ。俺、今は姿消してるから。お前にしか見えてないはずだ」
「は?」
アカリはあらためて周囲を見渡す。
言われてみれば、ギャラリーの視線は悪魔の羽を生やした青年ではなく、アカリのほうに集中しているように見えた。
「も、もしかして、声も?」
「ああ。俺の声も、今はお前にしか聞こえてないはずだぞ?」
そのあっけらかんとした口調は、アカリの
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ