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黄泉ブックタワー
第一章 それは秋葉原にそびえ立つ魔本の塔
第1話 初めてだった
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 と、今度はアカリのほうが不思議に思った。

 青年が本を開く。
 左手の親指をずらしながら、猛スピードでページを送っていった。
 最後まで進むのに、わずか数秒。

「この本には載ってないみたいだな。アカリ、それは新しい言葉か?」

 そんな速さでページをめくって、読めるの? とますます不思議に思いつつ、聞かれたことには答えることにした。

「新しいといえば新しいのかな。オレオレ詐欺っていうのは、孫とか子供のフリをして、お年寄りからお金を取る犯罪」
「俺、犯罪者じゃねえよ!」

 今度は一転、青年はムスっとした表情になった。

「あっそ。で、とりあえずあんた誰なの」
「俺は悪魔だよ」
「私に悪魔さんなんていう知り合いはいません」
「いや、いるだろ? お前、昨日ツイッターで『死にたい』とか書いただろ。そのときリプしたぞ」

 ――あ。
 心当たりはあった。

 たしかに昨日、ツイッターで「もー死にたい」とは書いており、すぐに「悪魔」という名のユーザーから、長々と説教じみた励ましをもらっていた。
 ツイートは冗談半分であり、匿名の相手に人生相談などする気はなかっため、大変に困惑していた。

「あの悪魔かー。朝起きて思い出したら気持ち悪くなったから、ブロックしちゃってた」
「んあっ?」

 青年はわかりやすく驚いた表情をとると、ショートパンツの右ポケットからスマートフォンを取り出した。

「あ。ここ無料Wi-Fiとかいうやつ、つながってないか。でもお前ひでえな! 俺べつに変なこと言ってなかっただろ!」
「ごめんごめん」
「なんだよ、せっかく励ましたのに」

「でも今までリプくれたことなかったでしょ? いきなり来るとびっくりするよ。というか、ツイッターにリアル情報を出してないのに今日いきなり私の前に現れるとか、おかしくない? ストーカーなの?」
「俺、悪魔なんだから、お前の位置を知っててもおかしくないだろ。ストーカーじゃないぞ」
「ストーカーっていう言葉は知ってるんだ……」

 ツイッターやWi-Fi、ストーカーを知っていて、オレオレ詐欺は知らない。
 そのバランスの悪さを、アカリはいぶかしく思った。

「で、自称悪魔のストーカーさんは、なんの用で私の前に現れたの?」
「だからストーカーじゃないって。今日は仕事をしにきたんだぜ」
「仕事?」

 青年は「ああ」と答えると、少し顎を引いて、胸を張った。

「お前の願いを、一つだけ叶えてやるよ」

 人差し指を立て、ニコッと笑う青年。
 夏の日差しに照らされた、爽やかなその顔。なぜか汗が光っている様子はないが、見かけだけならずいぶんと健康的で、逞しい若者といった感じだ。

「ふーん。本物の悪魔みたいなことを言うんだね
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