第二百八十五話 色鉛筆その八
[8]前話 [2]次話
「それでこの世を去ったんだ」
「グッドバイって感じで」
「そうそう、その作品を書き残してね」
もうこの作品は未完でよかったのではないだろうか、如是我聞と人間失格を書き終えてやり残したことはないと思っていて。
「この世を後にしたんだ」
「そうだったわね」
「太宰は無頼派の代表作家だけれど」
それでもだ。
「全ての権威や権力を否定していたかっていうと」
「違っていたのね」
「芥川も権威だからね」
芥川賞になっている程だ。
「それで若い頃プロレタリアにかぶれかけてね」
「途中で止めたのよね」
「本質的に危ないって察したのかな」
プロレタリア即ち共産主義のそれにだ。
「当時共産主義ってソ連でね」
「あの国ね」
「もうあの頃のソ連ってスターリンの時代で」
「大粛清やってたわね」
「その時代だから」
ソ連の外では殆ど知られていないことだった、とはいっても夢野久作の死後の恋では赤軍の残虐さが書かれている。
「共産主義は危険思想だったよ」
「政府が言ってるだけじゃなくて」
「実際にテロも何でもやるね」
「そんな思想だったのよね」
「もう革命の為なら手段を選ばない」
「そうした思想で勢力だったのね」
「だから蟹工船とかもそのまま読んだらね」
それこそだ。
「駄目なんだよ」
「そうだったのね」
「あれプロパガンダだから」
当時の日本共産党は完全にコミンテルンの指示を受けて動いていた、つまりスターリンの統制下にあったのだ。
「そのまま読んだら駄目だよ」
「そういえば」
香織さんは僕の話を聞いてこう言った。
「私北海道で生まれ育ったけれど」
「まさに蟹工船の本場だね」
「ええ、ああいった蟹とか鰊とか鰯とかね」
「大変な労働だね」
「けれど大変なだけにね」
過酷な現場での重労働だけにだ。
「収入もいい」
「そうしたお仕事だったね」
「そうだったのよね」
「だからあの作品もね」
蟹工船、小林多喜二が書いたこの作品もだ。
「そのことを頭に入れておかないと」
「駄目ってことね」
「小林多喜二はその共産党員だったから」
まさにその人だった。
「本人は知らなくてもね」
「粛清とか普通にする組織の人達だったのね」
「そうだったからね」
当時の共産主義自体がそうだったからだ。
「太宰もね」
「そのことに気付いたかも知れないの」
「鋭い人だったから」
このことは間違いない。
「それでね」
「気付いてなのね」
「共産主義から離れたのかもね」
「結構保守的な人だったのよね」
「皇室支持していたしね」
終戦直後の当の共産主義勢力が一気に出て来た時にこう言った。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ