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同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
閉会〜金帰火来には遠すぎる〜
復興の国〜エル・ファシル共和国にて〜(上)
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 宇宙歴796年4月も半ばを過ぎたころである。
ホアン・ルイはこっそりとエル・ファシルの陸上車に乗り込み、車載TVカメラで【民主主義の縦深】代表世話役ことロムスキー医師と連絡を取り合っていた。

「マスコミ連中はこれから私が首相のところに行くという事でそちらに向かっております」
 同盟弁務官は儀礼的には閣僚と同格の扱いを受けている。実務的に言ってもハイネセンからの観光振興や産業のPRなどソフトな発信を含めて同盟弁務官は政府代表部としての役割と持っている点は間違いなくあった。

「ありがとうロムスキー先生」
「いやいや私は労農を支持しておりますからね。【縦深】にとっても地方を重視している政党が下院にいれば心強い」

「彼らもそう思ってくれれば良いのだがね。いつの間にか独立政党をつけられていたのには驚いたよ」
 ちらり、とビルを眺める。ホアン・ルイがこれから訪問するエル・ファシル進歩連盟本部だ。
 ロムスキーは苦笑を浮かべてそれに答えた。
 アーサー・リンチの敗戦と逃亡による本土陥落と奪還作戦後、エル・ファシル共和国では本土復興超党派大連立が組まれていた。
 エル・ファシル奪還作戦から4年、エル・ファシル議会総選挙の際に当時国防委員長に就任したばかりのヨブ・トリューニヒトが大規模な軍主導の宇宙港拡張と物資の吐き出しによる施設復旧支援といったテコ入れを図った事で状況は一変した。
 露骨や選挙介入に際し、商工会と労働組合をまとめあげて、リベラルな協同改革党と社会民主主義路線のエル・ファシル人民党を左派政党合流に漕ぎつけたのが、連立政権第二党であるエル・ファシル進歩連盟の現総裁だ。
 結果としては三度目の中道連立政権となったがトリューニヒトの梃入れに対し労農連帯党と自由党を両天秤にかけながら支援を引き出し、【エル・ファシルの政治】を訴えかけたことで議会第二党へと躍進したのである。

 だがこれは労農連帯党中央執行委員長としてのホアン・ルイからすればあまり良い気はしないのが本音である。
 
「進歩連盟の総裁とはあの選挙の時に挨拶をしただけだな。ほとんどハイネセンに顔を出さないようだ」
 妙に顔が良い若手の政治ジャーナリスト上がりだったのは覚えている。名前は確かビョークルンドだったか。
「見かけはともかく、食えない政治家ですよ総裁殿は。まぁなんだね、見かけに騙されないようにしたほうがよろしいかと」
 では私は首相のところに行ってきますぞ、とロムスキーはさっさと通信を切ってしまった。同盟弁務官は中央政党党首に敬意こそ払っても上司ではない、ということである。
 




「ホアン・ルイ執行委員長ですねぇ、はい確かに承っておりますぅ。――勿論、中は”掃除”しておりますのでお気兼ねなくどうぞぉ」
 甘ったるい声を出し
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