ターン31 新世代の蕾、育むは水源
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「え、えっと、失礼しました!仕事中だったんですね、お姉様!」
「いやいや、楽にしていてくれ。邪魔しているのは俺の方だからな」
くるりと踵を返した少女の背中を、本源氏が呼び止める。口調こそ気さくだがその彫りの深い顔にざっくりと走った古傷は、笑っていてもその迫力が薄れるわけではない。振り返って即座に表情を強張らせた少女を見て、糸巻はかつての現役時代に聞いた笑い話を思い出していた。彼のデュエルがテレビ中継された時には、嘘か本当か彼の顔がアップになるたびに「子供が泣いた」という趣旨の苦情の電話が入ったという……。
もちろん、これが噂話に過ぎないことは糸巻も承知している。プロデュエリストは単なる実力だけでは生き残れない世界、少なくとも試合のたびに苦情が来るようではスポンサーが寄り付くわけがない。それでもそんな冗談が成立するほどに、若かりし頃から本源氏の強面っぷりには定評があったのだ。そしてあれから幾星霜、その顔つきは柔和になるどころかますます凄みを増していた。それこそ、過去の笑い話が笑っていいものかどうか判別が難しくなる程度には。
「……まあ楽にしてくれ、八卦ちゃん。それからそっちの、竹丸ちゃんだっけか。外は寒いだろ、入っておいで」
「「は、はい」」
いつもの活発さはどこへやら、借りてきた猫のようにそろそろと糸巻の隣に座る少女。それを見て、まだ玄関から様子を窺っていたもう1人の少女も慌てて寄ってきて親友の隣の席をキープする。
「……」
「……」
興味深そうに机を挟んだ向かい側の3人を見つめる本源氏に、いまだに表情硬く糸巻の隣にぴったりとひっつく八卦、その八卦にさらに身を寄せる竹丸。なんとなく誰も話し出さないままの空気に耐えかね、糸巻がその場の口火を切った。
「それで、八卦ちゃん。今日はどうしたんだ、友達まで連れてきて」
「え、ええと……」
歯切れも悪く、ちらりと本源氏へと視線を向ける。本人はいいと言っているものの、本当に自分たちの存在が迷惑になっていないかと不安になっているのだろう。
「この人はな、あー、アタシの……」
歯切れが悪いのは、立場の違いが脳裏にちらついたからだった。かつての糸巻と本源氏ならば、自信をもってこの男は同業者であり、年の離れた友人であると言い切れただろう。しかし今の彼女はデュエルポリスであり、いまだ社会に対して戦いを続ける彼とは対極に位置する関係だ。
そんな自分に、彼を友と呼ぶ資格などあるのだろうか。そんな逡巡だらけのセリフの後半を引き取ったのは、ほかならぬ本源氏だった。
「古い友人、だよ。もう何年も会ってはいなかったが、糸巻の話は何度も耳にしていた」
「爺さん……」
「年寄り扱いはよしてくれ。まあそんなわけで、色々あったが久しぶりにこうして顔を見てい
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