ターン31 新世代の蕾、育むは水源
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「おう、さっきは悪かったな。アタシの方はこのまま別件だ。ああ、ちょいと面倒なことになってな。仕事だよ仕事、薄給激務なデュエルポリス様のお仕事だ。いつも通り、そっちの方で口裏合わせといてくれると助かる……悪い、恩に着る。んじゃな」
オフィスの電話を切った糸巻が振り返ると、先ほど入れた茶を飲みながら冷静な目でこちらを窺う本源氏と目が合った。先ほどのデュエルの後で彼を保護するとは言ったものの処置に困り、とりあえず彼女のホームであるこの場所に連れてきたのだ。問うような視線に肩をすくめ、言い訳がましく口にする。
「警察だよ。元々アタシは今日、兜建設の現場検証に駆り出されてたのを放り投げて爺さんとこに来たわけだからな……ああわかってる、別にチクったりはしねえよ」
警察、と口にした瞬間からみるみる険しくなっていく目つきに閉口し、慌てて最後の一言をぼそっと付け加える。だが当の本人は、そうではないと首を横に振る。
「先ほども言ったと思ったがな、まだ老人扱いはやめてくれ」
「そりゃ悪かったな、爺さん?」
間髪入れぬ返答は、無論わざとである。期待した通りの反応、苦虫を噛み潰したような表情を見て、くっくっと低く笑みがこぼれる。我ながら意地の悪いことをしていると少し自分でも驚いたが、すぐに思い直した。いくら自分から招き入れたこととはいえ、とんでもない爆弾を抱えることになったのだから、その留飲を多少下げたところで、罰は当たらないだろう。
糸巻も自分の分の茶を注ぎながら、そんな本源氏の正面に座りこんだ。
「さて、ぼちぼち無駄話はしまいにしよう。アンタの身の安全はアタシが手を回して保証してやるが、その代わりにいくつか聞きたいことがある。まず、」
「お姉様!お願いがあります!」
「えっと、し、失礼します」
しかし珍しく糸巻が自分から仕事をしようとした最初の言葉は、バーンとドアを勢いよく開けながら雪崩れ込んできた少女の声によって中断された。さらにその後ろからおずおずと顔を出す丸眼鏡に茶髪の少女。今更ながらに鍵を閉めていなかったことを思い出しあちゃーとこめかみに手を当てる糸巻とは対照的に、突然の小さな乱入者に奇異と好奇の目を向ける本源氏と、先ほどまで静かだったオフィスの中では一斉に視線が交差する。
一方でその場に固まったのが、飛び込んできた当の少女……八卦である。このオフィスが普段客人や来訪者などまずやってこない場所であることは、これまで毎日のように入り浸ってきた少女はよく知っている。先日までここにいた鼓もフランスへと帰り、部下である鳥居も長期の研修に出た、少なくともそう聞いている。当然今日も、この場所にいるのはお姉様こと糸巻だけだろうと最初から思い込んでいたのだ。だからこそ、勝手知ったるこの場所へと今日は友人を連れてきたのだが。
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