第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
第61話 神の依代と幸運の女神:後編
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衡するかに見える状況であった。だが、そんな最中勇美は思っていたのである。
(……まずいなあ……)
それが今の勇美の心境を如実に表すものであった。
依姫とフォルは互角に戦っているように思えたのだが、このまま続ければ動きの制度に優劣の差が出てくる。勇美は今までの経験からそれを察していたのだった。
手刀と本物の刀。一見リーチの長い刀の方が有利に見えるだろう。
しかし、本物の物質としての刀。それには最大の弱点があったのだ。
それは、自分の体の一部ではなく、手に持つ道具であるが故、ずっとそれを握っていなくてはならないのだ。
一見それは簡単に思われるだろう。だが、それを接戦の最中、常に力を込めて握り締めていれば知らず知らずの内に手に疲れを生み出してしまうのである。
勿論、それでもリーチと攻撃の手段に優れた、本物の刀を持った方が素手で戦う者よりも数段に有利であるのは明白である。──普通ならば。
だが、フォルの手刀捌きは剣士の剣捌きにひけを取らないという事実がここにはあるのだ。
その様な異常な条件がある為、刀よりも自らの体を使う手刀が有利になるという嘘のような信実がここには存在していたのだった。
そう、今不利に追い込まれているのは依姫なのであった。
(くっ……)
当の依姫もそれを感じ取っていた。そこへ彼女の刀捌きに若干の鈍りが生じる。
その瞬間を見逃すフォルではなかった。彼女は宝石と形容するに相応しい芸術的な瞳の輝きを更に増すのだった。
「そこっ!」
瞬時にフォルは叫び声と共に、依姫の刀の握りが少し緩んだ手へ的確に渾身の手刀を叩き込んだのだった。
「っ……!」
それに対して、依姫は堪らずに刀を手離してしまった。刀を手から離すのは剣士が避けなければいけないという事は頭で解りつつも、自分の体である手が言う事を聞かなかったのだ。
そして、依姫の刀は宙へと舞い上げられてしまった。まるで、竹とんぼを彷彿とさせるような回転の下、上空へと持ち上げられる。
だが、その瞬間でも依姫は油断してはいなかったのだ。
何故なら、刀を扱う上で握りが命運を分ける事は、先日の妖夢との文字通りの『真剣勝負』で痛感していたからである。
経験を無駄にはしないのが依姫の流儀であるのだ。それが自分と戦った者への礼儀だと彼女は考えるからであった。
そして、あの時は自分に神降ろしを使わないルールを課して戦っていたが、今はその限りではない。
勿論依姫は正々堂々とした戦いを心掛けている。だが、それと同時に状況を最大限に利用するというしたたかさも忘れてはいないのだ。
故に、今こそ神降ろしを使う時だと彼女は踏んだのであった。彼女は今の状況を打破するに相応しい神の名を呼称する。
「『千手観音』よ、今こそその力を示したまえ!」
そう依
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