第四章
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「そうする」
「では」
「うむ、頼ませてもらう」
伊藤はこう言って二人の女を呼んだ、そうして。
女達と楽しんだ、そのうえで。
家に帰るとだ、妻にこう言った。
「今宵はよいか」
「あら、白粉の匂いがしますよ」
妻はその伊藤に笑って言った。
「毎晩のことですが」
「ははは、そうか」
「それでもですね」
「今宵はよいか」
「私はいいですよ。ですが本当に」
「女は大好きじゃ」
妻にも隠さずに言う。
「真にな」
「左様ですね」
「そうじゃ、ではな」
「これよりですね」
「楽しもう」
こう言ってだった。
妻とも楽しんだ、そして翌朝新聞を見て笑って言った。
「またわしのことが書いておるわ」
「あら、そうですか」
妻の返事は何でもないといったものであった。
「今日も」
「女がどうとかな」
「いつものことですね」
「好きに書いておるわ、しかしな」
それでもとだ、伊藤はさらに言った。
「これもな」
「偽りが書かれていますか」
「こんなことはせぬ」
その書かれていることを読みつつ妻に話した。
「決してな」
「確かにこれは」
妻もその記事を読んで言った。
「旦那様のされることではないですね」
「全く、好き勝手書き過ぎじゃ」
「文屋というものは」
「それで文句を言うのも狭量であるしな」
「そしてあちらも文句を言うので」
「せぬがな、まあわしがどういったことをするかはわかっておる者はわかっておる」
伊藤はやや怒った顔になっていたが元の顔に戻って述べた。
「それならそれでいいわ」
「左様ですか」
「うむ、ではな」
「これからもですね」
「女は楽しむ」
それは止めないと言うのだ、そして。
その夫にだ、妻は笑って話した。
「ではその様に」
「うむ、お前もそれを認めてくれるか」
「そんなことはわかっていてですから」
伊藤の妻になったというのだ。
「ですから」
「そうか、ではな」
「はい、それでは」
「今宵もそうしてくる」
こう言ってだった、伊藤はまずは政務にあたった。そうして夜は女を楽しんだ、そちらを止めることはなかったが相手は常に選んだ。
伊藤博文は確かに女好きであったがそれでも遊ぶ相手は無名の芸者ばかりで素人も他の者の馴染みの女も相手にはしなかった。それは揉めごとを避ける為だ。
伊藤がそうした者であることは知られているがそれでもだ、彼については今も悪い風説が絶えない。だがその実はこうであったらしい。権力を使ったり無理強いをしてまで遊ぶ人物ではなかった。彼が並外れた女好きであったことは事実であるがそうした一面を知れば親しみが持てるものであろうか。少なくとも節度を弁えていた人物であったことは間違いなかった。そう言っていいであろうか。
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