第一章
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公爵の歯
元老の一人である山縣有朋はとかく色々言われている人物である、新聞では彼の悪い話がやたら書かれている。
それでだ、山縣の側近達が彼に言うのだった。
「事実無根のものも多く」
「あまりにも酷いのでは」
「公爵の関係ないことまで公爵が関わってるだの言われて」
「それであることないことです」
「好きなだけ書かれていますが」
「論壇でもそうですし」
「そうだな」
山縣はその面長で口髭をワックスも使って整えた顔で言った、目は小さくそれが余計に面長な顔を特徴付けている。
「伊藤さんも井上さんも随分書かれているが」
「公爵は特にです」
「やれ汚職だやれ不敬だ」
「傲慢だ陰謀だ姑息だと」
「悪の限りを尽くしている様ではないですが」
「元々わしは好かれておらん」
山縣は自分から言った。
「そもそもな、だからブン屋が書くのもだ」
「普通にありますか」
「あることないこと」
「それで論壇も言う」
「こちらも好き勝手ね」
「どうせわしが死んでも好き勝手書く」
山縣は何でもない顔でこうも言った。
「死んでよかったとでも書くであろう」
「そこまで、ですか」
「公爵は好かれていない」
「そう言われますか」
「そうだ、自分で嫌われていることはわかっておる」
自分からだ、山縣はその言葉を出した。
「だからよい、そしてだ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「わしは嫌われてもだ」
世間にというのだ、実際山縣は民衆そして彼と親しい者以外からは徹底して嫌われている。このことは紛れもない事実だ。
そのことからだ、彼は言うのだった。
「それでもだ」
「いいですか」
「それでも」
「公爵ご自身は」
「ただ己がすべきことをしてだ」
そしてというのだ。
「果たすだけだ」
「左様ですか」
「日本の為に」
「そうされますか」
「そうだ、それとだが」
ここで山縣は話を変えた、その話はというと。
「露西亜のことだが」
「はい、あの国はです」
「まだ長城の北にいます」
「北京の騒ぎは収まりましたが」
「それでもです」
「他の列強は兵を退かせましたが」
周りは山縣に応え露西亜の動きを彼に話した。
「しかしです」
「露西亜だけは違います」
「長城の北に居座っています」
「そして大韓帝国にもです」
「日増しに影響を強めています」
「危ないな」
山縣は彼等の話を聞いて目を顰めさせた、そのうえで言った。
「長城の北に居座られるだけでもだが」
「遼東にも兵を置いてです」
「旅順の要塞をさらに堅固にしているとか」
「そしてです」
「そこに艦隊も置こうとしています」
「それだけでも日本にとって怖いが」
それだけでなく、というの
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