第五章
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後にワーグナーは自分の作品だけを上演する歌劇場をバイロイトに持った、だがその上演でもだった。
ワーグナー以後の劇場の責任者彼の子供や孫達は常にだった。
ワーグナーのテノールを歌える歌手をまず探した、世界広しと言えどだった。
「いないな」
「今満足にトリスタンを歌える歌手は何処にいる」
「タンホイザーやジークフリートも歌って欲しいが」
「いや、ローエングリンやヴァルタ―もだ」
「ジークムントやパルジファルにしても」
ワーグナーのテノールの役を歌える歌手をバイロイトの者達は探し回っていた。
「とにかくいない」
「欧州で今誰がいる」
「アメリカも探せ」
「勿論アジアもだ」
「優れた歌手がいるならこちらからオファーを出すんだ」
「ギャラは糸目をつけなくていい」
金はあるからだというのだ、バイロイトは上演されると常に満席で来る客も高い金を払っている。その為歌手への報酬はあるというのだ。
「だからだ」
「何とか歌手を見付けるんだ」
「歌える歌手はいないか」
「ワーグナーの役を満足に歌えるテノールは」
「とにかく探すんだ」
「そしてこのバイロイトに来てもらうんだ」
口々に言う、彼等も必死である。
そしてあるワーグナーのテノールを歌う歌手は言った。
「ワーグナーを指揮出来る歌手は幾らでもいるんだ」
「貴方は今カラヤン氏と揉めていますが」
「それで、ですか」
「そうだ、私は言う」
当時世界的な指揮者と言われていたヘルバルト=フォン=カラヤンとローエングリンのことで衝突していた彼が言うのだ。
「けれど歌手はいるかい?」
「ワーグナーのテノールを歌える歌手は」
「一体どれだけいるか」
「世界は広いよ」
歌手もそれはと言う。
「かなり、人口も何十億といる」
「それでもですか」
「ワーグナーのテノールを歌える歌手はどれだけか」
「どれだけいるかですか」
「五人といないんだ」
そこまで少ないというのだ。
「その僕が言うんだ、今回は僕が正しい」
「カラヤン氏ではなくですね」
「貴方がですね」
「それだけにわかっているつもりだよ」
ワーグナーの作品がというのだ。
「どうするかは、間違っているのはマエストロだ」
「あのカラヤン氏が、ですか」
「それはまた」
「間違いない、伊達に僕はその五人といない中にはいない」
歌手はこうも言った。
「わかっているつもりだ、だから言うよ」
「このローエングリンについては」
「どうかとですね」
「そう、言うよ」
その様にというのだ。
「僕はね、それだけのものがあるから」
「ワーグナーのテノールについては」
「そこまでのものがある」
「だからこそですか」
「相手がマエストロでもね」
世界に五人といないまでのもの
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