第一章
[2]次話
牛鬼淵
徳川吉宗はその話を聞きすぐに言った。
「すぐにことを収めねばならん」
「はい、さもなければです」
「民が脅かされ続けます」
「そうなってしまいます」
家臣達も吉宗の大柄で大きな耳が目立つ顔を見て言う。
「ですからここはです」
「一刻も早く手を打ちましょう」
「牛鬼を退治しましょう」
「是非な、しかしな」
吉宗は難しい顔で言った。
「牛鬼は化けるそうであるな」
「はい」
その通りだとだ、有馬氏倫が答えた。やや垂れ目で長方形に近い形の顔の生真面目な中に穏やかなものがある顔の男だ。
「これがです」
「それも美しいおなごにだな」
「そう聞いています」
「そしてそれに騙されてか」
「襲われて食われておるのです」
「誰でもおなごは気になるもの」
吉宗はこのことは当然とした。
「一瞬でも目を奪われるな」
「そしてそこにです」
「隙が出来てだな」
「襲われてです」
「そういうことだな、まして化けておるとなるとな」
牛鬼がそうしていればというのだ。
「人と思いな」
「まさかと思い」
「襲われるな」
「この牛鬼、ただ獰猛なだけでなく」
人を襲って食うだけでなくというのだ。
「それに加えてです」
「狡猾でもあるな」
「だから厄介かと」
有馬は吉宗に述べた。
「どうしても」
「左様であるか、しかしな」
「はい、放ってはおけませぬな」
「民が襲われ食われておるのだ」
それならとだ、吉宗は有馬に強い声で答えた。
「それを放っておける筈がない」
「左様でありますな」
「だからな」
「一刻も早くですな」
「成敗しよう、しかし」
吉宗は今度はこう言った。
「問題はどうして成敗するかであるが」
「牛鬼を」
「その牛鬼は強いのであるな」
「顔は牛で身体は逞しい大男のもので」
有馬は伝え聞く牛鬼の姿を話した。
「襲われてもかろうじて逃げた者の話だとだ。
「恐ろしく力が強くまた動きも速い」
「かなりの強さか」
「そしてです」
「人に化けておるな」
「美しいおなごに」
今話した通りにというのだ。
「そうだとか」
「左様か、なら我が藩でも腕利きを送ろう」
吉宗は袖の中で腕を組み考える顔になり述べた。
「それでも出来るなら何人かな、しかもな」
「しかもとは」
「今余は美しいおなごは誰でも目を奪われると言ったが」
「はい、それは」
「おなごの好みは人それぞれであるな」
吉宗は有馬にこのことも話した。
「そうであるな」
「はい、それは」
その通りだとだ、有馬も吉宗に答えた。
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