第一章
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顔に泥を
吉田松陰は実に真面目な男である、とかく学問に励み相手が誰であろうと学問そして人生の師匠と考え敬意を表す。
それは弟子達に対しても同じでそれが為に弟子達は皆彼を心から慕った。だが。
「先生は素晴らしい方だが」
「生真面目一辺倒であられるな」
「冗談を言われぬ」
「落語等もご存知だが言われぬ」
「こと笑いのことはな」
「無縁だな」
「ははは、むしろ先生が冗談を言われたら」
弟子の一人の桂小五郎がここでこう言った。
「おかしくないか」
「それもそうか」
「先生が冗談を言われるなぞな」
「言われてみれば想像も出来ん」
「それはないわ」
「どうもな」
「そうであろう、だからな」
それでとだ、桂はさらに話した。
「先生はあれでよいではないか」
「冗談とは無縁であられる」
「そして笑いのネタも言われぬ」
「それが先生であるか」
「そうであるな」
松下村塾の他の者達も納得した、それでだった。
皆松陰が笑いとは無縁でも彼の人柄と学識自体を愛し慕っていった。だがそんなある日のことだった。
松陰の門下生が増えていった結果塾が狭くなったので塾舎を拡げることにしたのだが。
「先生お金はないのですか」
「そうなのですか」
「はい、ないです」
松陰はその細面で笑って話した。
「僕はとんとお金には無縁の男で」
「先生、笑いごとではないかと」
「塾は大きくしないといけないです」
「ですがお金がないとなると」
「大工も雇えません」
「そうなのですよね」
世事には疎い松陰はこう言うばかりだった。
「さて、どうしたものか」
「では我々が行います」
「素人ではありますが」
「先生のことですから」
弟子達はそれならと松陰にこぞって申し出た。
「そうさせて頂きます」
「大工が雇えぬとなると」
「我等がさせて頂きますので」
「ここはお任せ下さい」
「それではお願い出来ますか」
松陰も弟子達の申し出を受けて述べた。
「それで」
「はい、それでは」
松陰もそれならと応えた、こうしてだった。
弟子達が塾舎を大きくすることにした、すると松陰も自ら作業に入った。そこで彼はこう言うのだった。
「僕だけが遊ぶということもです」
「よくないからですか」
「それで、ですか」
「ご自身も働かれますか」
「はい、自分の塾を拡げるのでしたら」
それならともいうのだ。
「ならです」
「余計にですか」
「ご自身も動かれる」
「左様ですか」
「そうです、それでは一緒に働きましょう」
こう言ってだった、松陰は自身も働きに入った。そして。
作業が進み塾の壁塗りのところに至った時二だ、弟子の一人である品川弥二郎が松陰に対して言った。
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