第二章
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「切除の方がです」
「確実なのか」
「助かる確率は」
「しかし歌えなくなるな」
このことをだ、バスティアニーニは医師に確認を取った。
「メスを入れると」
「かなり危険です」
「ならだ」
「それは、ですか」
「私は歌いたい」
絶対にとだ、バスティアニーニは医師に強い声で言った。舞台で歌う時と同じくバリトンの美声で以て。
「何があっても」
「だからですか」
「放射線治療だ」
「助かる確率は」
「こちらは低いか」
「切る方に比べればかなり、時間もかかるので」
それでというのだ。
「助かるにはです」
「メスを入れる方がいいか」
「普通は切除を勧めます」
医師としてというのだ。
「助かる確率がその方が高いので」
「即座に切ればか」
「それで」
「そうか、しかしな」
「マエストロはですね」
「歌いたい、最後までな」
このことは絶対だというのだ。
「やはりな」
「では」
「放射線治療でいく」
「そうしてですね」
「何があっても歌う」
こう言ってだった、バスティアニーニは放射線治療に入った。しかし。
彼の歌を聴いて批評家達は口々に言った。
「声の質が落ちているな」
「そうだな」
「これまでの美声がない」
「歌唱力もにも影響が出ている」
「バスティアニーニも盛りを過ぎたか」
「少し早い気もするがな」
「落ち目か」
こう口々に言うのだった。
「不摂生かも知れないな」
「ディ=ステーファノがそうだしな」
テノールのジュゼッペ=ディ=ステーファノである。確かに歌手としては素晴らしいが遊び人としても知られている。
「彼も何時かはな」
「落ちるだろうが」
「あれでは落ちるのが早い」
「彼も同じか」
「残念だがな」
「そうなるか」
こうしたことを話していった、そして。
その話を聞いた医師もバスティアニーニに言った。
「あの、どうも」
「噂ではだな」
「貴方の喉のことで」
「知っている」
バスティアニーニの返事は簡潔だった。
「もうな」
「そうですか」
「だがだ」
「歌えなくなるよりはですか」
「いい」
それでというのだ。
「私はだ」
「このままですか」
「放射線治療でいく」
「批評家の人達の言葉は」
「彼等は言うのが仕事だ」
「そうですか、ですがどうも」
医師はバスティアニーニに難しい顔でさらに話した。
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