第一章
[2]次話
癌でも
眉のすぐ下に彫のある鋭い目がある、黒髪は美しく鼻の形もよく唇も引き締まっている、エットーレ=バスティアニーニは容姿でも一流のバリトン歌手だった。
だがこの時彼は蒼白になっていた、その顔で自分の前に座る医師に問うた。
「もう一度」
「病名を、ですか」
「聞かせてくれるか」
「癌です」
医師は彼に沈痛な顔で答えた。
「喉頭癌です」
「そうだな」
「間違いなく」
「私は歌手だ」
バスティアニーニはこのことを言葉に出した。
「歌劇の」
「マエストロの名唱はいつも聴かせてもらっています」
医師はバスティアニーニに沈痛な顔で述べた。
「ですが」
「癌、しかもよりによって」
「喉に」
「治るのか」
バスティアニーニは医師に問うた。
「それで」
「治療方法は二つあります」
「二つか」
「まずは切除です」
医師は最初にこの方法を出した。
「癌の部分をです」
「切り除くか」
「それがあります」
「出来る筈がない」
即座にだった、バスティアニーニは医師に答えた。
「それは」
「はい、喉にメスを入れるなぞ」
「そんなことをすればだ」
それこそというのだ。
「私は歌えなくなる」
「その危険は非常に大きいです」
医師も否定しなかった。
「やはり」
「そうだな」
「それで助かっても」
それでもというのだ。
「マエストロの喉はです」
「二度と歌えなくなるな」
「喋ることさえも」
歌うどころかというのだ。
「そちらも」
「それはしない」
バスティアニーニはまた答えた。
「私は、それでもう一つのだ」
「治療方法ですね」
「二つあると言ったな」
「はい」
その通りだとだ、医師はバスティアニーニに答えた。
「申し上げた通り」
「ではもう一つは」
「放射線治療です」
これだとだ、医師はまた答えた。
「そちらです」
「それでか」
「癌細胞を消すのです」
「そうするのか」
「喉に影響はありますが」
それでもという口調でだ、医師はさらに話した。
「しかしメスを入れることはなく」
「治療出来るな」
「はい」
医師はその通りだと答えた。
「喉に影響は出ても」
「私は歌えるな」
「これからも」
「ならそちらだ」
「はい、ですが」
医師はさらに話した。
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