第四話 青薔薇
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どこか遠くで、鐘の音が聞こえたような気がした。
それを合図に脳が覚醒し、ゆっくりと目を開く。
見知らぬ天井に数秒硬直したが、教会の部屋を借りたことを思い出しながら上半身を起こした。
昨日、教会に住んでいる子供たちの相手をしたあと、部屋に入るなりベッドに直行していたため気づかなかったが、俺はそれなりに良い部屋を貸し与えられていたようだ。調度品やベッドの質が高いのがそれを物語っている。
ベッドから降り、寝間着から着ていた普段着へと着替える。
丁度終わったあたりで、タイミング良くドアがノックされた。
「どうぞ」
「あら、ちゃんと起きられたのね」
そう言いながら入ってきたのは、すでにきちんと修道服を身に着けたセルカだった。
「起きるのは結構得意だからな。それに、ユージオとの約束にも遅れるわけにはいかないから」
俺の発した《ユージオ》という言葉に、セルカは分かりやすく反応した。ユージオとセルカの間に何かあるのは明白だったが、部外者が不用意に首を突っ込むわけにはいかない。あとでそれとなくユージオに訊いてみようとは思ったが。
「セルカ、俺はこの後どこに行けばいいんだ?」
「もうすぐ礼拝が始まるから、一階の礼拝堂に集まって。その前に井戸で顔をあらってくるのを忘れないでね。私は子供たちを起こしてくるから」
そう言って彼女は足早にこの部屋を去った。
色々と気になることができたが、まずは言われた通りに顔を洗ってこようとセルカのあとを追うように部屋を後にした。
◆
こうして草むらの生い茂る道を一人で歩いていると、否が応でも思考の海に飲まれてしまう。
この世界は何なのか。
この世界の住人は一体何者なのか。
ここが《STL》によって生み出された世界であることは間違いない。おそらくテストダイブ中になんらかの不具合が起き、記憶の制限が不完全になってしまったのだろう。
けれどそれだけでは、村で出会ってきた人々の説明がつかない。
最初、ユージオも俺と同じテストプレイヤーだと思っていた。まるでこの世界の住人のように振る舞っていたのは、記憶が制限されているからだと。
しかし、村に入って衛士と会話したときこの推測にヒビが入った。
そして今日、この推測は完全に崩壊した。
今朝から、俺はたくさんの村の人々と会話をした。パン屋を営んでいる夫婦に、リンゴをくれた老婆、遊びに誘ってくれた子供たち。
ベクタの迷子という設定がよかったのか、彼ら以外にもたくさんの村の人たちが話しかけてきてくれた。
その中で、一つ確信した。
彼らは人間だ。
感情や知性が宿っているのは、瞳を見れば一目瞭然だった。
ならば、彼らは全員《ST
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