第二話 アンダーワールド
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ける。
「えー、こんにちは」
木こりの少年は驚いたように少し跳ね、すぐさま振り向いた。若葉色の瞳が困惑気味に揺れ動く。
俺は出来るだけにこやかな顔で問いかけた。
「スタッフの方ですか?」
彼の瞳がさらに困惑の色を深める。これはミスったかと思っていると、少年はおもむろに口を開いた。
「……あの、すたっふって何ですか?」
これはかなり雲行きが怪しい。さっきの自然な受け答えからNPCではないのだろうが、さりとてこの世界を管理している《RATH》の人間だとも思えない。
だとするならば、おそらく彼は俺と同じテストプレイヤーなのだろう。そして彼は記憶の制限を受けていて、この世界の住人になりきっている。けれど俺の場合、何らかの不具合で記憶の制限が完全ではなかったのだ。
となると、ここは警戒心持たれないように行動した方が良さそうだ。
「あー、悪い間違えた。出口を聞きたかったんだけど、口が回らなくて」
そんな即バレするであろう嘘を、少し顔を下に向け彼の目線に合わせながらつく。
「確かにこの森は深いですからね、道を知らなきゃ迷って当然ですよ」
彼の純粋さがとても有難かった。
「でも、どうしてこんなところに居るんですか? うちの村以外でこの辺りに人が住んでいるところなんて、なかったと思うんですけど……」
「あ、ああ、実は自分でもよく分からないんだ。気付いたらこの森に倒れてて」
「ええっ……じゃあ、今まで住んでた町とかも………?」
「さっぱり」
「驚いたなぁ、《ベクタの迷子》か、噂には聞いてたけど……」
「ベクタの迷子?」
聞きなれない言葉の羅列に思わず聞き返す。
「ある日突然いなくなったり、逆に森や野原に突然現れる人を、僕の村じゃそう呼ぶんです。闇の神ベクタが、悪戯で人間をさらって、生まれの記憶を引っこ抜いてすごく遠い土地に放り出すんです。僕の村でも、ずーっと昔、お婆さんが一人消えたらしいですよ」
「へぇ、だとしたら俺もそうなのかもしれないな」
そんな話があるのなら乗っかってしまった方が、後々のためになりそうだ。
「あ、なら僕の村に来ませんか? 寝るところがないのなら、シスター・アザリアに事情を話せば貸してくれるかもしれませんし」
「それは有難いな。実は寝床をどうしようか悩んでたんだ」
「あぁ、でもすみません。すぐに村に案内したいんですけど、まだ仕事が残っていて……。まだあと四時間ぐらい掛かるんです」
「そのぐらいなら全然待つよ。君は命の恩人なんだから」
「ありがとうございます。それじゃあ、しばらくそこで座ってください。あ……まだ、名乗っていませんでしたね」
彼は右手をぐっと差し出し、続けた。
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