第二話 アンダーワールド
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度覗き込む。
顔はいつも通りだが、問題は髪だ。髪が、赤く染まっていた。
忘れられるはずもない、これは俺があのゲームで使っていたアバターだ。その赤い髪も、一層でたまたまドロップした髪染めのアイテムを面白半分で使ってみたら意外と似合っていると友人たちに言われ、そのままにしていたものだ。
その髪がトリガーになったのだろう。
望んでもいないのに頭の中で勝手に再生される。
笑い転げた日のことや、殴り合った日のこと。
そしてあのゲームの中でのことを回想すると、最後は決まってこの場面で終わる。
『にげろっ!』
そして、アイツらはポリゴン片に――
―――自分の顔に勢い良く水を掛けた。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け」
何度も、何度も、呟く。
早鐘を打ち続ける心臓を抑えるために。
幸いにして、動悸は数分でおさまった。
軽く息を吐けば、思考もクリアになる。
慣れた作業だった。
苦しい思いをしたが、おかげで分かったこともある。
俺は現実世界で髪を赤く染めた記憶なんて存在しない。けれど、あのリアルな水の表現が既存の仮想世界で再現できるものだとも思えない。
それらを踏まえると、一つの答えが浮かび上がってくる。
ここは新型のフルダイブ・マシンが作り出した仮想世界。なんらかの原因で《STL》に入った記憶を失っているとすれば、辻褄が合う。
不意に奇妙な音が耳に届いた。硬い何かを、より硬い何かで打ち付けているような、そんな音が。しかもそれが規則的に。
一瞬どうするか迷ったが、これは人が放った音だと当たりを付け、音源の方角に歩みを進めた。
どうやら音の源は少し森に入ったところにあるらしく、草を分け入って前進する。しばらく歩いていると、前方の木と木の間に出来た隙間が明るくなっていることに気付いた。少し足早になりながら、木の根を飛び越え、森から飛び出す。
絶句した。
目の前に、巨大な樹が聳え立っているのだ。幹の直径は五メートルは超えているだろう。皮はまるで岩肌のように硬く、黒くなっている。そして愕然としたのがその高さ。首を限界まで曲げても梢など全く見通せない。
この巨木の圧倒的な風格に眼を奪われていると、再びあの音が届いた。しかもさっきとは違い、かなり大きい。
警戒しながら幹の反対側を覗き込んだ。
そこでは木こりらしき少年が、一心不乱に斧を巨木に打ち付けているところだった。
年齢は自分より少し年下の、十七、八くらいだろうか。灰色がかったブラウンの髪を波打たせ、夢中で斧を振っている。
「……四十八、……四十九、……五十!」
どうやら一区切りついたらしく、持っていた斧を巨木に立て掛けていた。
これはチャンスとばかりに話しか
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