第一話 始まり
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『じゃあな〇〇〇。父さんと母さんはもう行くけど、妹が困ってたら助けてやるんだぞ。父さんとの約束だ』
やめろ。
やめてくれ。
『お兄ちゃん。私のことは心配しなくても大丈夫だから。お兄ちゃんが進みたい道を選んで?』
お願いだ。
もうやめてくれ。
『絶対このデスゲームから、みんなで生きて帰ろうぜ!』
頼む。
もう。
限界だ。
◆
「お疲れさまッス、カガトくん」
数十時間ものあいだ振動を与えられなかったせいか、一拍遅れて音が脳に届いた。
その信号に反応して瞼を開く。
「えーっと、比嘉さん?」
これまた長い時間使わなかったせいなのか、輪郭が曖昧なまま答える。
「一応準備しといたんで、これ使ってくださいッス」
なにやら布ような何かを手渡される。
「これは?」
「拭いたほうがいいッスよ。顔、ヒドイことになってるッスから」
このとき初めて気付いた。
自分の頬が湿っていることに。
自分が、涙を流していることに。
慌てて手渡された布らしき何かで目元を拭う。少しずつ輪郭が鮮明になっていった。
「どうッスか。体のどこかに違和感とか感じるッスか?」
「……少し体が重い気がしますけど、そこまで大きな違和感は感じないですね」
「もちろん我々も障害なんかが残らないように万全を期してはいるッスけど、万が一なんてことも有り得るッスからね。なんせ、三日間も寝たきりなんスから」
「でも脳はちゃんと活動してたんですよね? この《STL》の中で」
言いながら後方を親指で差す。
デザイン性など全く考慮されてない、この厳ついマシンを。
「ええ、もちろんスよ。まあ、ダイブ中の記憶を遮断されているカガトくんには、ただ寝てただけのように感じるのも無理ないッスけどね」
「そこが少し気になるんですよ」
「何がッスか?」
「最初の頃のテストダイブは記憶制限されていなかったですよね? 何故、今回のダイブだけ記憶制限なんてあるんですか?」
「そのことッスか。まぁ簡単に言ってしまえば機密保持のためッス。この『ソウル・トランスレーター』は公表出来ない夢と希望が詰まってるマシンスから」
そう言って、比嘉さんはニカッと笑った。その笑顔が、これ以上は何も話せない、という意思表示だと受け取った俺は話題を変えることにした。
「どうです? 俺がダイブしてる間、何か変わったことありましたか?」
「そうッスねぇ。相も変わらず、韓国と日本の国交は拗れきってるッスよ」
「いやいや、そういう話じゃなくて。もっと身近なヤツで何かないですか
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