第89話『優菜の想い』
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「ねぇ、今どこ歩いてるんだろ?」
「皆目見当もつきません。まるで樹海ですね」
雨で湿った地面を踏みしめながら、晴登と優菜は森林をかき分けながら進んでいた。目的地は知っている場所ないし開けた所だ。とにかく誰かに見つけて貰わなくてはいけない。
しかし、中々目立った場所には辿り着かず、似たような景色の中を延々と歩いている。
「そうだ、晴登君の力で崖を登ることはできないんですか?」
「残念だけど、それはちょっとできないかな。それにまだ魔力が回復しきってないから、仮にできても途中で落ちるかもしれない」
「そうですか…。さすがに虫が良すぎましたね…」
晴登の答えを聞いて、優菜はがっくりと肩を落とす。
こんな事態に陥るくらいなら、多少無理をしてでも飛ぶ練習をしておくべきだった。自分の不甲斐なさに腹が立つ。いやでも落ちたら怖いし・・・
会話が滞り、黙々と2人は前進する。何か話題はないかと晴登が考えていると、先に優菜が口を開いた。
「あの晴登君、また1つ訊いていいですか?」
「こ、今度は何かな…?」
その言葉に晴登は身構える。さっきからの彼女の質問を鑑みると、きっと普通の質問や提案には留まらない。
「今日の花火の時って、予定ありますか…?」
「え…?」
優菜が顔を覗き込みながら訊いてくる。この質問にはどういう意図があるのだろう。昨日聞いた「花火の噂」というワードが頭を過ぎるが、それと何か関係があるのだろうか。
だが何にせよ、晴登には先約がいる。それは伝えないと。
「ある、けど…」
「…やっぱりですか。相手は結月ちゃんですか?」
「何で知ってるの!?」
「むしろなぜわからないと思ったんですか…」
優菜が呆れたようにため息をつく。その後、ふと何かに気づいたような表情をして、こちらを見た。
「もしかして、晴登君は噂のことを知らないんですか?」
「う、うん。皆言ってるけど、内容は聞きそびれちゃって…」
「なるほど。だからそんなに驚いたんですね」
優菜は納得したように頷く。しかし、晴登はまだ納得していない。毎回いいタイミングで噂の内容を知らずじまいなのだ。そろそろ気になって仕方ない。
「それで、どうして本当にわかったの?」
「噂の内容を知らないのであれば、その疑問も当然ですよね。花火の噂というのはですね、『花火を2人きりで見た男女のペアは結ばれる』というものなのです」
「…へぇ」
「思ったより驚かないんですね」
「いや、なんか思ったより普通で拍子抜けしたというか…」
この学校のことだから、そんなベタな内容じゃないだろうと思っていたのだが、まさか本当に恋愛系だなんて
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