第89話『優菜の想い』
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ならば、感謝してもしきれない。
「ね、ねぇハルト、ちょっと痛いんだけど…」
「え!? あ、ごめん!」
結月に指摘されて、晴登は慌てて彼女を抱き締めていた手を離す。感謝していたら、つい力が入ってしまっていたらしい。
「あ、でももう少し堪能したかったかも…」
「結月ちゃん、晴登君も困ってますし、その辺にしておきましょう」
「むぅ、残念だなぁ」
口ではそう言いつつも、結月はすぐに笑顔に戻る。この切り替えの早さは見習いたいものだ。
「感動の再会はもういいかい? とにかく無事で良かったよ、三浦君、戸部さん」
「「山本先生」」
結月と一緒に捜索に来ていた先生の内の1人は山本だった。彼もまたにこやかな笑みを浮かべている。
「崖から落ちたと聞いた時は肝を冷やしたよ。怪我はしてないのかい?」
「え、まぁ一応──」
「いえ、私は手首を捻挫しているようです。後は枝で引っかけた傷が何ヶ所か。晴登君も似たような感じです」
「ふむ。なら戻ったらすぐに手当をしようか」
「はい」
山本の問いに晴登が答えようとすると、それを遮るように優菜が答えた。
しかし、その内容は晴登には初耳なもので、すぐに彼女に小声で尋ねる。
「え、捻挫してたの? 知らなかったんだけど…」
「嘘に決まっているじゃないですか。崖から落ちて無傷なんて、普通に考えて怪しいですから」
「あ、確かに…」
彼女の言う通り、死人が出るレベルの事故から無傷で生還したというのはあまりに非現実的すぎる。怪我はしたものの、偶然助かったという体で話を進めた方がいいだろう。
「それじゃあ戻るよ」
「「「はい」」」
山本の指示に従い、晴登たち3人は行動を始めた。
*
「三浦君! 無事だったんだね!」
「本当に良かったぜ…!」
「優菜ちゃ〜ん!」
現在の時刻は17時半。先生に連れられて旅館まで戻ってきた晴登と優菜は、すぐさま狐太郎と大地と莉奈に囲まれる。本気で心配したのだろう。今にも泣きそうな雰囲気だ。
「俺は信じてたぞ」
「暁君」
「…やっぱすげぇよ、お前」
「まさか。運が良かっただけだよ」
一方伸太郎はいつも通りの態度だ。ここまで堂々とされると、逆に心配して欲しいとも思う。
──本当に、今回は運が良かっただけだ。
着地直後に魔力が尽きたとなると、魔術を使い始めたタイミングはギリギリだったということになる。少しでも早ければ、着地より先に魔力が切れて地面に直撃し、逆に遅くても風穴を空けるのが間に合わず木に直撃していた。初めての高さにぶっつけ本番で、よく上手くいったも
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