死神ヨミちゃん
9話 何か入りにくいなー
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すが如く、誇らしげだった。
そうこう話しているうちに、希は左中間へと白球を弾き返す。今度こそ完璧なタイムリーツーベースだった。
「芳乃ちゃん、恥ずかしいからもうやめて??????」
ホームインして戻ってきた珠姫は困ったように言う。練習試合の為、グラウンドの外にギャラリーはいない。ベンチからの声援の合間に芳乃の声がホームベースまで届いていた。
「あはっ。人気者は辛いねー」
正美はおかしそうに笑う。
『希ちゃーん、ないばっちー』
二塁に立つ希に芳乃と詠深は声援を送った。希と芳乃は笑顔でエアハイタッチを交わす。
新越谷は待望の追加点を上げたが、そのあとが続かず、7−2で最終回を迎えた。
珠姫はマウンドへ行き、詠深と長めの打ち合わせをとっている。ようやくホームへ戻って行った珠姫はどこか気合に満ちていた。
「プレイ!」
詠深は7回も打たせて取るピッチングで淡々と2アウトを奪う。次の打者を押さえれば新越谷の初勝利。
迎えたこの回3人目のバッター。詠深と珠姫はツーシームにストレートを外角低め続け、2ストライクと追い込んだ。
「……リードが変わった」
「うん。次くるよ」
ベンチにいる二人はバッテリーの変化に気付く。
「初見であの球は打てないよねー。特に右打者は」
正美の言う通り、詠深の投じた3球目に打者はのけ反りながらのスイングとなり、3球三振となった。
「ストライクスリー!ゲームセット!」
新越谷ナインはマウンドへ集まり、喜びを分かち合う。このチームが出来てから辛い練習に耐え……しかし、練習試合では一度も勝つことが出来ずに自信を失いかけた事もあっただろう。それが、今この場で報われたのだ。
中学で一度も勝つことが出来ず、ようやく初勝利を手にした者。一度は辞める事を決意した野球に戻ってきた者。不祥事と休部を乗り越えてグラウンドに立つ者。負のジンクスを乗り越えた者。様々な思いがこの1勝に詰まっていた。新越谷にとってはただの練習試合の1勝ではない。これはとっても価値のあるモノである。
――何か入りにくいなー。
正美はみんなとの温度差を感じていた。正美の入部は最近の事だし、新越谷での練習試合も初めてである。彼女の心に火が灯るのは、まだ先の事だった。
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