第88話『雨宿り』
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「ごめんなさい、私のせいで…」
「あ、いや、責めてる訳じゃないんだ! スタンプラリーなんかより、戸部さんの無事の方が大事だよ」
「…ありがとうございます」
残念だけど、背に腹は代えられないというもの。スタンプラリーの賞品とか気になるけど、今回は諦めるしかない。
「あの…1つお願いしてもいいですか?」
「何?」
「その…晴登君って呼んでもいいですか?」
「え!? い、いいけど…」
優菜はもじもじとしながら、それでいてハッキリと言った。いきなりの提案に、晴登は驚きながらも承諾する。にしても、どうしてこのタイミングに…?
「もっと、晴登君と仲良くなりたいんです」
「そ、そっか。うん、俺も戸部さんと仲良くしていきたいかな──」
「優菜」
「え?」
「私は晴登君って呼びますから、晴登君も私のことを優菜って呼んでください」
「えぇ!?」
何てことだ。確かに仲良くなるに当たって名前呼びは効果的と言うが、相手が女子なら男子にとってそのハードルは高い。莉奈や結月は自然とそうなっていたが、こうして改まって言い直すのは照れくさいというもの。加えて晴登のことを名前で呼んでくれる人はあまりいないから、呼ばれるのも余計にくすぐったく感じてしまう。
「えっと…優菜、さん…」
「ちゃん付けの方が仲良さそうじゃないですか?」
「えぇ!? じゃあ…優菜、ちゃん…」
「はい、ありがとうございます、晴登君」
恥ずかしい。今絶対耳まで赤くなってる。女子をちゃん付けで、しかも名前で呼ぶなんて何年ぶりだろう。昔はコミュ障で、女子と話すことすらロクにしてなかった訳だし、余計に緊張してしまう。
「そういえば、身体の調子はどうですか?」
「そ、そうだね。かなり回復してきたかな」
唐突な話題変換に戸惑いつつも、晴登はもう身体を起こせることに気づいた。まだ倦怠感は残っているが、歩くこともできそうだ。
「ではそろそろ移動しましょうか。雨も止んできたようですし」
「ここで待ってたら助けが来ないかな?」
「恐らく皆が救助を呼んでくれているとは思いますが、辺りは森ですし、開けた場所に出た方が見つけて貰いやすいかもしれません」
「なるほど」
優菜の意見に納得し、晴登はタオルを彼女に返して立ち上がる。崖の上から見た感じ、ここら一帯は森林だったはずだが、それでも行くしかない。
「準備はいい? 戸部さ・・・」
「……」
「優菜、ちゃん…」
「はい、大丈夫です」
…何だろう、凄くやりにくい。
戸惑う晴登とは対照的に、優菜は満足そうに微笑んだ。
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