第88話『雨宿り』
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過ぎってしまうのも無理はない。
「ハルト! ハルト!」
「落ち着け結月! お前まで取り乱してどうする!」
「でもハルトが!」
「アイツならきっと大丈夫だ。確かにお前ならこの崖も平気かもしれないが、ここで行ってもコイツらを混乱させちまう」
「う…」
伸太郎は冷静に事態を把握し、崖を降りようと早まる結月を留まらせる。晴登は風の魔術師。なら、生きている可能性もまだ残されているというもの。
「ひとまず、先生たちに知らせる。けど、この大雨で全員が動くのはかえって危険だ。だから結月、そっちに行ってくれるか?」
「おい待てよ、結月ちゃんを1人で行かせる方が危ないだろ! 俺が・・・」
「大丈夫だよダイチ。ボクが行く」
「……っ」
伸太郎の提案に大地が食ってかかるが、結月自身がそれを止めた。その真剣な表情を見て、大地は言葉に詰まる。
「いいか結月、"全力"で麓まで戻るんだ。それか旅館でもいい。とにかく大人を三浦たちの元へ向かわせるんだ」
「うん、わかった」
「あと、くれぐれも人目には気をつけろ」
「もちろん」
「全力」を強調して、伸太郎は結月に指示を出す。そしてその意図に気づいたのか、結月は力強く頷いた。伸太郎の思いつく限り、今はこれが最善手だ。
「それじゃ、行ってくる!」
「気をつけて、結月ちゃん!」
「うん!」
莉奈に手を振り返しながら、結月は山道を駆け下りていく。
そして、誰の視界にも映らなくなったであろう瞬間、結月の足元から冷気が溢れ出した。
「待ってて、ハルト」
たちまち地面は氷結していき、結月はその氷の上を滑り始めた。山下りなら、こっちの方が走るよりも何倍も速い。これが伸太郎の意図だ。
もちろん、氷はすぐ溶けるように配慮している。雨の中ならば目立つこともない。
山道を滑り下り、時には森の中を突っ切って、結月は直線的に麓を目指す。雨に打たれようが、枝が頬を掠めようが構わない。晴登を助けるためなら、何だってやってやる。
「──絶対に助けるから」
*
「う、ん…?」
「あ、目覚めたんですか三浦君! 良かったぁ…」
「戸部さん…? ここは…?」
「近くにあった洞窟です。雨宿りするために入ったんです」
目を覚ますと、晴登の顔を心配そうに覗き込む優菜の顔が見えた。そして彼女の私物なのか、身体にはタオルがかけられている。いつの間に寝てしまっていたのだろうか。まだスタンプラリーの途中だというのに・・・。
石の硬い感触を背中に感じながら、晴登は身体を──起こせなかった。
「無理をしちゃダメですよ。まだ寝ていて下さい」
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