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曇天に哭く修羅
第四部
知らぬが華 6

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紫闇(しあん)斗浪(となみ)に対し狼狽(うろた)えていた。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】で時間の流れを緩め動きを遅くしているのに平然と歩いてくるからだ。

この状況で考えられるのは主に2つ。

斗浪のスペックが遅くされた時間を問題としない程に高いのか、はたまた珀刹怖凍に対抗できる能力を持っているのか。

暴走状態とは言え今の紫闇は正気の紫闇が持つ知識を引き出すことが出来る。

去年の【全領域戦争】で団体戦の優勝メンバーだった斗浪のことは知っており、基本ステータスが自分を超えているのは納得だろう。

おかしいのは斗浪が遅くなった時間に対抗しようと運動しているのではなく、何事も無いかのようにして歩いてくること。

激しい動きをしているのならもっと違った表情や呼吸のはずだが斗浪の歩みは珀刹怖凍で時間を停滞させる前とまるで変わらない。


つまり何らかの対抗能力持ち。


「何か気付いたみたいですね。まあ気付いたところで無駄に終わるんですけど」


斗浪は少し(おび)えがちになった紫闇に構わず彼の方へ近付き何かを(ささや)いた。


「【無窮虚空(パピロスフィル)】」


紫闇の動きが完全に止まる。


「どうですか? 広くて透明だけど、地平線が見えなくて果てしないでしょう?」


見えないのに見えてしまう。

紫闇は今、全てを知覚できるということの恐ろしさを身を以て感じていた。

[情報]が流れ込んでくるのだ。

六感と脳では処理しきれない程に。

自動で体が動くような能力を有していれば現状でも戦えるのかもしれないが。


「ちゃんと聞こえてるか解りませんが教えておきましょうか。私の【無窮虚空】は普通の人間ならば即死してしまうような量の情報を強制的に与えることが可能です。能力を発動している限りは永続的に」


最後まで紫闇の攻撃を通さなかった防御力や情報能力は無窮虚空が持つ効果の一つに過ぎないので正気に戻った紫闇が覚えていようが問題ない。


「取り敢えず死なないように手足をもぎ取っておくことにしましょう。立華君が此方に戻って来るまではそのままです」


彼が上位存在との戦いを終えて起きる前に手足を元に戻してしまえば良いのだから。


「しかし私の【森羅眼】も困り物ですね。せっかく【六眼】から進化したと言うのに能力を覚醒していなければ見抜くことが出来ないとは……。まあ六眼の時よりもよく見えるようになりましたから良いんですけど」


斗浪は【六眼(りくがん)】を持った同い年で魔術師の遠い親戚を思い出す。


「今年は全領戦に出てくるんでしょうか」

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