第6部 贖罪の炎宝石
第6章 出撃
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童心に帰ったかのような口調に、エレオノールは思わず目を見開く。
公爵は歩いて倉庫から出る。
車の残していったタイヤ痕を見つめながら、ふっと笑った。
「あれは、わしにも操作ができるのかな?…いやはや、乗ってみたいものだ」
年末はウィンの月の第一週、マンの曜日はハルケギニアの歴史に残る日となった。
空にかかる二つの月が重なる日の翌日であり、アルビオンがもっともハルケギニア大陸に近づくこの日、トリスタニアとゲルマニア連合軍6万を乗せた大艦隊が、アルビオン侵攻のため、ラ・ロシェールを出航する運びとなったからである。
トリステイン、ゲルマニア大小合わせて、参加隻数は五百を数えた。
そのうちの六十が戦列艦であり、残りは兵や補給物資を運ぶガレオン船である。
女王アンリエッタと枢機卿マザリーニはラ・ロシェールの港、世界樹桟橋の頂点に立ち、出航する艦隊を見送った。
もやいを解かれたフネたちが一斉に空へと浮かび上がるさまは、まさに壮観といえた。
「まるで、種子が風に吹かれて一斉に舞うようですな」と、枢機卿が感想をもらす。
「大陸を塗りかえる種子です」
「白の国を、青に塗り替える種子ですな」
トリステインの王家の旗は、青地に白の百合模様である。
「負けられませんな」とマザリーニがつぶやいた。
「負けるつもりはありませぬ」
ド・ポワチエ将軍は大胆と慎重を兼ね備えた名将です。彼ならやってくれるでしょう」
アンリエッタは彼が、名将と呼ぶには程遠い存在であることを知っていた。
しかし、王軍には人材がいないのだ。
彼より優れた将軍は、歴史の向こうにしか存在しなかった。
「するべき戦でしたかな」
小さな声で、マザリーニがつぶやく。
「なぜそのようなことを?」
「アルビオンを空から封鎖する手もありました。慎重を期せば、そちらが正攻と思えます」
「泥沼になりますわ」
表情を変えずに、アンリエッタは呟く。
「そうですな。白黒をつける勇気も必要ですな。わたしは歳をとったのかもしれませぬ」
マザリーニは白くなった髭をなでて、
「この度の戦、『虚無』と『魔人」を得てなお、負けたらなんとします?陛下』
機密に関する事柄を、さらっと言ってのけた。
ルイズの『虚無』と、その使い魔である『魔人』ことウルキオラを知るものは少ない。
アンリエッタ、そして枢機卿……、王軍の将軍が数名。
「この身を焼くことで罪が赦されるのなら、喜んで贖罪の業火に身をゆだねましょう」
じっと空をみつめて、アンリエッタは呟く。
「ご安心を。陛下一人で行かせはしませぬ。その際はこの老骨もお供するとしましょう」
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