暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン29 雷鳴瞬く太古の鼓動
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「無駄な警告でしょうが……この私を相手に『化かしあい』で勝てるなどとは、ゆめゆめ思わぬよう」

 扉が開くと、その向こう側で頭上の蛍光灯が放ち続けていた光が男の顔を上から照らす。巴光太郎……『おきつねさま』の名を持つ元プロデュエリストにして現テロリストの向ける皮肉な視線の先に、既に先ほどまでそこにいたはずの人影は存在せず、代わりに開きっぱなしの窓から入り込む風がカーテンを揺らしていた。





「ふぅーっ」

 そことは違う場所、高級そうな……といえば聞こえはいいが実際にはその華美なしつらえがいささか鼻につく、いかにも成金趣味な書斎で1人、小太りの中年男が息を吐いた。薄くなってきた髪を撫で、今日も仕事が平穏に終わったことに安堵の息を吐く。
 男の名は、兜大山(たいざん)。近年デュエルモンスターズの、つまり『BV』被害からの復興産業でメキメキと業績を伸ばしてきた、典型的な成り上がりの波に乗った男である。しかしそんな彼には、もうひとつ裏の顔がある。書斎の鍵がしっかりとかかっていることを確認した彼がいそいそと本棚の裏の隠し扉から取り出して高級ウイスキーとグラスの隣に並べたのは、デュエルモンスターズのカードである。

「どうれ、今夜も始めようか」

 おもむろにウイスキーを注ぎ、ストレートのそれを一口含む。革張りの椅子に深々と腰かけて、手にしたカードを1枚1枚丁寧に確認していく。高級な酒を飲みつつ、自慢のデッキを誰にも邪魔されず調整する……これが、彼にとっては至福のひとときだった。とはいえこの趣味も、始めたのはつい最近からだ。つい最近までこのデッキはどちらかといえばコレクションとしての意味合いが強く、時折眺めることはあっても今のように毎日のごとく取り出してはカードの入れ替えを検討したりなどとはしていなかった。
 それが決定的に変わったのは、あの日以来のことだ。今でも彼は、あの時のことを思い出す。自分に出資を持ち掛けられ、会場の提供まで行った裏デュエルコロシアム。それをどこからか嗅ぎつけ、偽の身分まで使い単身この書斎へと飛び込んできた青年、鳥居浄瑠……まったく、まさか彼があのデュエルポリスだとは思わなかった。
 ともかく彼がその時に魅せた、デュエルモンスターズに演劇の要素を取り入れたエンタメデュエルという未知なる概念。それが、兜のデュエリスト魂に火をつけたのだ。あれ以来自分がデュエルをする機会は訪れていないが、それでもなお色あせないデッキを強くすることへの喜び。

「ふむ、このカードまで入れるのはやはり重いだろうか。だがこのカードの枚数を削れば……いや、それでは安定感が落ちて本末転倒か?」

 回ってきた心地いい酔いに身を委ねながらぶつぶつと呟き、さらに次の一杯を注ぐべくボトルに手を伸ばす。しかしその手が、途中で止まった。
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