暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン29 雷鳴瞬く太古の鼓動
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 電気も点いていない、暗い部屋。明かりらしきものは、1か所しかない窓のカーテンの隙間から細く差し込んでくる月明かりぐらいのものだ。そしてそれすらも、排気ガスで汚れた都会の空気は容赦なく薄めていく。結果的にその部屋の中では、辛うじて自分の手元の形が理解できる程度の光量しか確保されていなかった。
 ……手元?そう、その部屋には人がいる。1人は机の前の椅子の上、目の前に置かれたワイン入りグラスに手も付けずに無言で座り込んだまま。そしてもう1人が足元もおぼつかない闇の中をものともせず軽やかに歩き回りながら、座る人影へと声を掛けた。

「さて、おおむねこちらの策としてはこんなところですかね。ご理解いただけましたか?」
「……」

 男の声にも、人影は微動だにしない。しかしその沈黙を肯定と受け取ったのか、気にした様子もなく言葉を続ける。

「では、これから貴方にはせいぜい馬車馬のように働いていただくことになるわけですが、その前に」

 歩き回っていた足を止め、ぼんやりとした輪郭ぐらいしか識別できないもう1人の首元に顔を寄せる最初の男。全体的にどこか芝居がかったその調子は先ほどまで話に上がっていたらしい「策」とやらへの高揚ゆえか、それとも目の前の人影の神経を逆なでするための彼なりの皮肉なおもてなしか。
 もし彼の狙いが後者にあったのだとしたら、その反応はあまり期待に添えるものとは言い難かったろう。これまでと変わらず、すぐ近くまで寄ってきた人の気配に対しても身動き一つしない……無視である。

「貴方と私は立場が違う。仕事にかかっていただく前にお互いのためにも、そこのところを改めて明確にしておこうと思いまして。言っておきますが、私は貴方のことを信頼するつもりも、気を許すつもりも欠片たりともありません。ですが私はそれでも、今の貴方は信用に足る相手だと思っていますよ。なぜだかわかりますか?」

 もし相手に答えるつもりがあったとしても、それを聞く気はないらしい。口を挟む暇すらも与えず、一方的な話は続く。

「貴方『も』、私に気を許してはいないからですよ。貴方は私を都合よく利用するだけ利用し、見切りをつけたらその場で使い捨てるつもりでいる。ああ、否定なんて結構ですよ。それはお互いさま、私も貴方には限界まで働いていただき、最後には使い潰すつもりで手を組んでいるわけですから。ですが今この瞬間だけは、貴方と私の利害は一致している。そうでしょう?互いに利用価値があるうちは、つまらない真似はよしましょう。貴方には、それを理解するだけの知能はあると私は見込んでいますよ」

 言いたいことだけ言ってくるりと半回転して背を向け、締め切られた部屋の出口へと向かう人影。しかし手を掛けた扉が開かれる寸前、ぴたりと動きを止めてもう1度だけ暗闇の中を振り返った。


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