最終章 大魔王の夢 - 不毛の大地グレブド・ヘル -
第53話 大魔王が見た夢
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だ」
その声は誇らしげなものではない。
どこか寂しげで、退廃的なものだった。
「なのにずっと、それに手を伸ばすことは叶わなかった。我々アルテアの民はひとたび外に出れば迫害の対象。この不毛の地で生きていくしかなかったのだ」
その落ちくぼんだ眼窩は、遠く景色を見て、そして遠く記憶を見ているのだろうと思われた。
「我々≠チてことは、大魔王もアルテアの民なの?」
それはソラトの質問だった。
シドウが子供のころ、彼がよく自身のことを臆病であると言っていたことを思い出したが、いま大魔王相手に慄いている様子はまったくない。
「余は純粋なアルテアの民だ」
大魔王は振り向いて、答えた。
これにはソラト以上に、アランとティアが驚きを隠さなかった。
「なんと。それは意外ですね」
「わたしも! でっかいから、あんたもモンスターとのハーフなのかと思った!」
相手が大魔王であっても無遠慮に話す二人。アランはその圧倒的な実力と自信、ティアは天然。
シドウは自然と苦笑が出た。本当に変わらないな、と。
種族を超越した大魔王の体の大きさ。シドウに思いつくものはある。
「自然界の動物は、ごくまれに身体的な変異を持つ個体があらわれることがあります。あなたもそうなのですね」
「おそらくそうだ。生まれつき体が大きく、力も強く、魔力量もアルテアの民としては異常なほど多かった」
大魔王は自身の体のこともよく理解していたのか、特に間を置くこともなく答えた。
そしてシドウに向けた首を、すぐには戻さなかった。
「ほう、少し雰囲気がおかしいと思ったが。お前は、混ざっているな?」
「わかるんですね。俺はドラゴンと人間のハーフです」
「なるほど。すると――」
大魔王はデュラと、それに寄り添うソラトを交互に見やった。
「そのとおりでございます。私と、この人間の間にできた子です」
「あはは。なんか恥ずかしいね」
デュラが答えると、ソラトも笑いながらシドウと同じ亜麻色の髪を?く。
シドウの目には、大魔王も優しく笑ったように見えた。
ふたたび大魔王は向きを変えた。
その視線の先は景色ではなく、一段と橙が濃くなった空。
「この世界はすべての事象が役割を持つ。余はそう考えている」
後ろで見守るシドウたちの体も、赤く染めあがってきていた。
「余についてもそうだ。この体で生まれたことも意味があり、大魔王に祭りあげられたことも、人間に討たれたことも、この世界にすれば意味があったのだろう。そして――」
シドウたちのほうへと振り向く。
「いま、余がこの姿で蘇り、お前たちに会ったことも……だ」
大魔王は一度全員の顔を見回す。
そのあとで
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