暁 〜小説投稿サイト〜
ナイン・レコード
ちいさなしまのおはなし
おもちゃの町
[1/16]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
.





ピンクはミミの大好きな色だ。
赤ほど主張しておらず、白ほど影が薄くなく、ミミの可愛らしさをいかんなく引き立ててくれる色だからだ。
母親譲りの愛されフェイスは、ミミの大好きな自分のパーツの1つ。
くりくりと大きな目は、友達みんなから羨ましがられている。
小学4年生にして母親から美に関する知識を叩き込まれており、肌はすべすべのもちもち。
頑張って伸ばした髪だって、お手入れは欠かさない。
可愛いアクセサリーやお洋服の情報も、常にチェックしている。
これはミミがナルシストというわけではなく、自分の可愛さを自覚している上での行為である。
お小遣いは全部そういったものにつぎ込まれているし、娘を可愛く着飾りたい母親もお金を惜しげもなくミミのために使ってくれた。
父親はそんな娘や妻に呆れている……のではなく、むしろもっとやれとハートマークを飛ばしながら、可愛く着飾った娘にメロメロである。
世界一可愛い、世界一美しい、そう言って両親がミミを褒め称えていたのが、今や懐かしい。
こっちの世界に迷い込んでからまだ4日ぐらいしか経っていないのに、自分を甘やかしてくれるパパやママが恋しくて仕方がなかった。
だってパパもママもミミがお腹空いたとか喉乾いたって言えば、それ以上は何も言わなくともはいはいって世話を焼いてくれるんだもん。
もちろん、ミミはもう小学4年生だから、そんな我儘が他の人にも通じるとは思っていない。
こういう我儘を言っていいのは、パパとママにだけって、ちゃんと分かっている。
あれがしたいこれがしたいってミミが口にするのは、ただ心に溜まった鬱憤を吐き出したいだけなのだ。


それはさておき。


ピンクはピンクでも、それが人間やデジモンの身体から排泄されたものなら、話は別である。
地下水道に漂っていた僅かな刺激臭を上書きする臭いと、頭上を飛び交う排泄物が、ミミ達を容赦なく襲う。
同じピンクでも可愛いテンガロンハットの広いつばを抱えるように掴んで、悲鳴を上げながら逃げ惑うミミは、ふと視界の端に先ほど通り過ぎた排水溝を見つけた。
後ろを走っていた上級生達を先導して、ミミは排水溝に飛び込む。
逃げるのに必死で、ミミは目の前で起こったはずの異変に気付くことができなかった。
背後から絶えず投げられるピンク色の排泄物。
いつの間にか岩肌に変化していた洞窟を駆け上り、向こうから光の筋が伸びてくるのが見えたから、ミミは一生懸命走った。
しかし悪夢は終わらない。
みんなで洞窟を出たはいいものの、宙を舞うピンクの排泄物が途切れることはなく、子ども達は立ち止まることを許されなかった。
反射的に左へ走ったミミにつられ、他の子ども達も後を追う。



岩肌の山はいつの間にかセピア色の草原へと変わっていたのだ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ