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絶対に夜空は見上げない
絶対に夜空は見上げない
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悲しかった。

 お誕生日会の翌日、今日はカサンドラ彗星が地球の近くを通過する日。以前から星にはそんなに興味がなかったし、苺事件で受けたショックから立ち直れない私は彗星見物になんか行きたくなかった。にも関わらず、両親に連れられ、近所の高台にある公園に来ている。公園には、近くに住む人たちが集まっていて、マイちゃんの姿も見えた。
「お父さんは高校生の頃、天体観測が趣味だったのよ。あなたの名前も最初、お父さんが<星子>にしようって言いだして。大ゲンカしたのを覚えてる。結局、私の希望する<彩子>になったの」
 私はお母さんの話を下を向いたまま聞いていた。幼稚な態度なのはわかっている。両親は何も関係ない。だけど、何に対してだろう、私はみんなに抵抗したかった。みんなが彗星を待ち望んで夜空を見上げている今、私はずっと地面を見ていた。
「しょうがない子ね。あなたの気持ちもわかるけど、子供同士なんだし、そういうこともあるわよ。今日は距離を置いてもいいけど、来週から、学校でまたマイちゃんたちと仲良くしなさい」
 私はトイレに行くと言って、お母さんから離れた。本当は独りになりたいだけだった。木が邪魔をして夜空が見えづらい場所、ここには人がいない。少し段になっているところを見つけ、私はそこを特等席にしようと決めた。彗星が流れていくまでの間、ここにいよう。そのとき、足元に何かが落ちているのに気づく。学生証だった。隣の県にある大学だ。
「フードアート学部、一年生、岡本瑠奈」と私は小さく声に出して言った。珍しい学部だなと思った。私も料理は好きで、子供ながらにお菓子の創作なんてこともしてみたりする。だからこそ、昨日、友達の大事なお誕生日を祝う、特別なケーキの、大切なトッピングを盗ったと言われたことに傷ついた。心から傷ついた。

「お、見えた!」
「いや、あれはただの飛行機だよ」
「家に帰って、テレビの中継で見ればよくない?」
「お腹空いた!」
「昔のSFで、彗星を見た人がみんな盲目になっちゃう話があったよな? おれらも見ないほうがいいんじゃないの」
 周囲の人たちの話し声が聞こえる。私は学生証をじっと眺めていた。写真の女性は顔色が悪い。一応は笑顔で、髪を後ろに束ね、おでこがすっきり見える健康そうな女性だ。それなのに、影があるというか、なんだか悲しそうな顔。フードアートなんて珍しい学部にあえて入ったんだから、きっと目標があって、望んだ大学に通っているに違いない。夢の第一歩を踏み出せたのに、なんでこんな悲しい笑顔なんだろう。
 私は来年から中学生になる。でも、将来のことはなにも考えていない。フードアート学部とはどんな授業なんだろうか。家に帰ったら、コンタ兄ちゃんのパソコンを借りて調べてみよう。

「来たぞ! 彗星、来た!」
「おー!」
「これがカサンドラか
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