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一人旅の女
第三章
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 不意に扉を叩く音がした、それで美香子は食べつつ首を傾げさせてそのうえで夫に対していぶかしむ声で言った。
「夜に誰か来るって」
「おかしいな、いや」
 磯部は味噌汁を飲む手を止めて昼に松村に言われたことを思い出して言った。
「若しかしてな」
「若しかして?」
「来たのがとんでもない美人ならな」
「あんたが浮気するとか」
「するか、絶対に部屋に入れるなよ」 
 こう言うのだった。
「一晩泊めてくれって言っても」
「それはどうしてよ」
「実はな」
 松村に話してもらったことをそのまま妻にも話した、すると妻もそれはという顔になってそれで言った。
「こっちにはそんな話あるの」
「そうみたいだな」
「宮城にはないわよ」
 美香子は自分の生まれ故郷のことから話した。
「そんな話は」
「俺と同じ東北だからな」
「座敷わらしの話があって」
「あと雪女とかな」
「そんな妖怪の話はあるけれど」
「それでもだな」
「そんな栄螺の妖怪の話なんて」
 それこそというのだ。
「ないわよ」
「宮城だとホヤか」
「ホヤが妖怪になるとか聞いたこともないわ」
「そうだよな、とにかくな」
「まだ扉コンコンとしてるし」
「出ないとな」
「本当にこんな時間に来る人なんて」
 美香子はどうかという顔で述べた。
「普通に考えてね」
「おかしいな」
「ええ、ただ本当に美人さんだったらね」
「俺が連れて行かれるからか」
「私が出るわね」
「そうしてくるか」
「ちょっと出るわ」
 こう言ってだ、美香子は食べるのを止めてだった。立ち上がり。
 扉を開けた、すると和服のとんでもないまでの美しさと色香を見せている妙齢の女がいた。その女を見てだった。
 美香子は間違いないと確信した、同性の自分ですら息を飲む美貌と色香だ。これなら男ならとも思った。 
 そうして女の言葉を待った、何と言うかを。
「あの」
「何でしょうか」 
 女のその言葉を受けて応えた。
「夜分に」
「実は旅をしていまして」
 女は慎ましやかなそれでいて艶やかな声で応えた。
「今夜泊めて頂きたいのですが」
「今夜ですか」
「宜しいでしょうか」
「実は空いている場所がなくて」
 美香子は思い付いた口実を出して答えた。
「申し訳ありませんが」
「そうですか」
「はい、他をあたってくれれば」
「それでは」 
 女は落胆した顔になって応えた、そしてだった。
 肩を落としてそのうえで扉の前を後にした、その時磯部がいる方を者尾茂に見たのを美香子は見逃さなかった。
 美香子は女が去ると扉の前に塩を撒いて魔除けとしそれで扉に鍵をかけた、そのうえで夫のところに戻って話した。
「今丁度ね」
「来たのか」
「あれは間違いないわ」
「そうだったか
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