第二章
[8]前話
「これではとても」
「いや、一文字でもだよ」
ユゴーは同行者に確かな顔で答えた。
「いいのだよ」
「そうですか」
「そう、本当にね」
まさにというのだ。
「意味が通じれば」
「一文字でもですか」
「そう、だからね」
「その手紙をですか」
「今から出版社に送って」
レ=ミゼラブルを出しているそちらにというのだ。
「編集者に売れ行きを確認するよ」
「そうされますか」
「今からね」
「では」
「これを送って」
出版社にというのだ。
「返事を待つ」
「そうされますか」
「その間旅を楽しもう」
こう言ってだった、そのうえで。
ユゴーは旅を楽しんだ、そうして旅から帰って自宅で出版社の返事を確認すると。
こちらも一文字だった、その文字はというと。
「『!』ですか」
「私も一文字だったがね」
ユゴーは旅から帰ったところであった、そこで同行者に話した。
「編集の彼もだよ」
「一文字でしたね」
「成程ね」
ユゴーはその『!』という文字を読んで笑っていた。
「よかったよ」
「これはどういう意味ですか?」
「まず私の『?』だが」
ユゴーは自分の手紙のことから話した。
「これは売れているのかというね」
「そうした意味の一文字でしたか」
「それを聞いたんだよ」
「そうでしたか」
「そしてその返事はね」
出版社つまり編集者のそれはというと。
「驚く様に売れている」
「そうした意味でしたか」
「そうだよ、お互い一文字ずつ言い合って」
そうしてというのだ。
「意味が通じた、面白いね」
「面白いといいますか」
どうかとだ、同行者はユゴーに答えた。
「よくそんなこと考えましたね」
「たまにはユーモアを出さないとな、私も」
「それは作風からのお話ですか」
「私の作品にはユーモアが殆どないからな」
このことを自覚しての言葉だった。
「こうした時には出したくなったのだよ」
「そのうえでのことですか」
「そうだよ、しかし売れているのなら何よりだよ。楽しい旅が終わったことと売れ行きを祝って乾杯しよう」
こう言って今度はとっておきのワインを出して飲んだ、ユゴーはこの時は満面の笑顔だった。後日聞いたところによるとレ=ミゼラブルは出版されて数日で売り切れになった。この手紙と共に今も残っている逸話である。
一文字の手紙 完
2020・5・19
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