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一文字の手紙
第一章
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                一文字の手紙
 当時作家のビクトル=ユゴーはイギリス領のガーンジ―島に住んでいた、その島でも多くの作品を執筆し脱稿していた。
 その中で彼はある作品を完成させて島の自分のところに来た編集者に話した。
「待たせたが」
「遂にですね」
「そうだ、完成したよ」
 白い重厚な髭が印象的なその顔で話した。
「レ=ミゼラブルが」
「遂にですね」
「この作品は私にとって重要な作品だ」
 ユゴーは自ら言った。
「そうなる」
「間違いなくですね」
「そうなるよ、ただね」
「売れ行きですね」 
 編集者はユゴーの言いたいことをすぐに察してこの言葉で応えた。
「問題は」
「売れるかどうかはね」
 どうしてもとだ、ユゴーは難しい顔で述べた。
「実際のところね」
「心配ですね」
「よくあることじゃないか」
「名作でもですね」
「売れないことはね」
 こう言うのだった。
「自分では会心の出来と思っていても」
「読者からはそうは思われない」
「そうなることがね」
「確かによくあることですね」
「後で評価されたりとかね」
 このケースもあるというのだ。
「あるね、レ=ミゼラブルは会心の作品だよ」
「はい、それはですね」
「書いた私自身が言うんだ」
 だからこそというのだ。
「もうね」
「作品の出来については」
「私の作品の中で一番だ」
 こうまで言った。
「そのことは事実だ、けれどね」
「だからといって売れるか」
「このことはね」
「どうしてもですね」
「わからない、まさに風の中の羽根の様なものだよ」
 そこまでのものだというのだ。
「本当にね、だからね」
「そのことは心配ですね」
「売れ行きだけはね、果たしてどうなるか」
「私は大丈夫だと思いますよ」 
 編集者は心配そうなユゴーに微笑んで答えた。
「ですから先生はです」
「安心していいんだね」
「はい、そして」
 そのうえでというのだ。
「吉報を待っていて下さい」
「旅行にも行っていいかな」
「どうぞ」
 是非にという返事だった。
「そうされて下さい」
「そうか、ではね」
「先生は安心して過ごされて下さい」
「そうさせてもらうよ」
 ユゴーは編集者の落ち着いておりかつ確かな言葉にこの場は安心した、そのうえで日常を過ごして旅行にも出た。
 その時にはレ=ミゼラブルは出版されていた、ユゴーもこのことを知っているので再び売れ行きが不安になった、それで編集者にどうなのかという手紙を滞在先のホテルで書くことにしたが。
 その手紙を見た共に旅をしている者は怪訝な顔になってユゴーに問うた。
「あの、この手紙は」
「どうかな」
「それはとても」
 ユゴーにどうかという顔で言うのだった。

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