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カーク・ターナーの憂鬱
第27話 新しい夢
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宇宙暦729年 帝国暦418年 12月末
惑星テルヌーゼン 帝国亭(ウーラント商会のレストラン)
マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター

「うむ。確かに帝国風だが、貴族的な価値観とはまた違う形で洗練されている。懐かしくもあり、初めての味でもある。まさか亡命してこんな体験をすることになるとはな......」

亡命以来、統合作戦本部ビルに籠る生活をしていた私だが、貸しがある情報部の准将の力添えもあり、佐官の軍服に着替え統合作戦本部ビルを抜け出し、情報部のセーフハウスのひとつでビジネススーツに着替え、護衛2名と共に、隣接するテルヌーゼンのレストランに足を運んだ。
帝国風の食材をメインにしながら、同盟風のアレンジが加えられた料理の数々。一皿一皿が私の哀愁を刺激し、また勝手に夢見ているエコニアで将来生まれる食文化を先取りしているようにも思え、希望を感じさせる物でもあった。

「本部ビルの食事も悪くはないが、たまには工作員の真似事も悪くはないか」

予め情報部を通じて経営者である候補生に連絡を取り、ランチには少し遅い14時に来店し、料理を楽しんだ。通された個室は広々とスペースを使い、正面は大きく一枚ガラスで光量が確保され、左右の壁には、ウーラント家が持ち込んだのであろう帝国の絵画と、同盟の近代絵画が並んで飾られている。本来あるべき同盟の姿を現しているようでもあり、一人で美味を食すこの時間は、私の感性を刺激するものだった。

『お約束を頂いておりました。ターナーでございます。』

ノックと共に室外から声が掛かる。手元の腕時計を見るともう15時だ。もう少しこの部屋で紅茶を飲んでいたい気持ちもあったが、本来の目的はこれからの面談だ。すぐに入室を許可する。

「失礼します」

そう言って入室してきたオレンジ色の髪をした青年は、一礼してから頭を上げる。着席を促すように指し示すと、優雅な所作で私の対面に座る。エメラルドの瞳は生気に満ちていて、それだけでも、彼が何かを成し遂げる人物だと感じた。

「情報部の方にクリーニングをして頂けるとは光栄です。帝国亭もここまで来たかと嬉しく存じました。もっとも公言出来ないのが残念ですが......」

そう言いながらテーブルに用意されていたティーセットを引き寄せ、優雅に紅茶の用意を進める。お茶の用意をする間は雑談の時間でもある。

「そう言えばイーセンブルク校にも短期入学の経験があったのだな。見事なものだ」

「新鮮な経験でしたが、おかげでマナーには困らなくなりました。階級社会に触れたのもあれが初めての経験でした。良くも悪くも、貴族の方々に良心と矜持があった時代は、帝国の暮らしとはこんな感じだったのかと、幼いながらに思った記憶がございます。平民と申しましても、私の出身地の生活よりは
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