第21話 シミュレーター
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宇宙暦726年 帝国暦415年 10月末
同盟軍士官学校 戦術シミュレーター棟
ファン・チューリン
「く、また見透かされたか......」
私はシミュレーターのコンソールを叩きながらぼやく。士官学校特有の講義である戦術シミュレーター。既に対戦がはじまって一時間。稀にみる長期戦の様相を呈していたが、じりじりと私は戦力を削られている。私の誘いには徹底して乗らず、誘いとは違うポイントをかすめる様に攻撃し、出血を強いてくる。ボクシングで言えば、ジャブを打ち合っているが、相手のジャブばかり当たると言った感じだろうか。
「彼が相手の土俵に合わせてくることは分かっていた。こうなったらトコトン粘ってみるか」
こちらの誘いが全て見透かされる以上、下手な事はしない方が良い。相手が上手ならトコトン守勢に徹してやる。そう決心してからさらに一時間。時間切れで判定負けとはなったが、必死に食らいつくだけの時間は、妙に楽しい時間だった。
「良く集中力が続いたな。ファン、お疲れ」
戦術シミュレーターを出て、一息ついているとウーロン茶を差し出しながら対戦相手が声をかけて来た。オレンジの髪とエメラルドの瞳が特徴的な同期のターナー。士官学校に入校してまだ半年だが、同期の中では話題の人物だ。戦術シミュレーターの対戦で、相手の得意な戦術と同じ戦術で戦い、楽しめたなら対戦相手の好みのドリンクを差し入れる。彼からドリンクをもらえれば教官も及第点は付けるなんて話まで出ていた。
「ありがたく頂く」
短く礼を言い、ウーロン茶で喉を潤す。彼に視線を向けるとお馴染みのストレートティーを飲んでいた。いつか彼にストレートティーを胸を張って奢りたい。それが今の私の小さな目標だった。
「ファンの粘りはすごいな。シミュレーターで2時間、実戦なら48時間か。48時間あれば戦場以外の要素が動くはずだ。防衛戦としては十分だな」
「というと?」
彼の意図が掴みかねて、私は短く応じる。本来なら素直に教えを乞うべきなのは分かっていた。ただ、私はコミュニケーションが苦手だ。同年代の友人も少なく、同期の中でも話をするのは少数だ。直すべきだとも思うが、こればかりは性分なのか、自分なりの努力は実を結んでいなかった。
「そうだなあ。対帝国との戦争で、同盟は基本的に防衛側だ。帝国の連中はご苦労なことにオーディンからイゼルローン回廊を抜けてくる。追加の戦力を呼ぶにも、補給を受けるにも、こちらの数倍の労力が必要だ。負けない戦いをされるのは、向こうさんにとっては嫌だと思うぞ?」
確かにそうだ。帝国の首都星オーディンからイゼルローン回廊を抜けるのに40〜50日、輸送船を伴っていたとしても、戦力の維持には限界がある。戦術シミュレーターで大敗は無いが大勝もなく、惜敗と辛勝を重ねて
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